2018年3月24日土曜日

震災レポート・戦後日本編(番外編 ③)―[ニッポン革命論 ①]

 2018年の新年早々、〝挑発的〟な本に出逢ってしまい、(前回の『憂国論』に引き続き)根石さん宛に「携帯メール送信」を始めてしまった。→ また回り道になりますが…とりあえず、その携帯メール9回分を「番外編③」としてお届けします。(全3回ぐらいの予定…)
                                         


『挑発的ニッポン革命論』―煽動の時代を生き抜け― モーリー・ロバートソン                                                      ――(1)

                                                                     集英社2017.10.31


〔著者は…1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト。…父はスコットランド系アメリカ人の医師、母は日本人のジャーナリスト。…米国籍のいわゆる日米ハーフ。〕

→5歳のときに父親の転勤(※赴任先はなんとあのABCC=原爆傷害調査委員会の研究員…この件はまた後で触れることになると思う)で広島に移り住み、日本語(当時は完全に広島弁)をマスター。→ その後、再び父親の仕事の関係で13歳のときにアメリカに戻ってから、中高時代は日米を行ったり来たりの生活を送る。

「日米どちらの社会でも、僕は〝浮いた存在〟でした。アメリカでは人との距離感がちょっとおかしな、女にモテない日本育ちの変なヤツ。一方、日本では不良アメリカ人扱いされることがしばしば。ずっと違和感の中にいました。」(※『よくひとりぼっちだった』文藝春秋1984年 という自叙伝あり)

→ その後、東大に現役合格したが、入ってみると強烈な違和感を感じてすぐに辞め、同じ年の秋にはハーバード大学に入学(電子音楽を学ぶ)…浮き沈みの激しい10代だった。

(※「東大とハーバード大に現役合格」…ミーハー的に言えば、かっこ良すぎる…!)

(補足)…広島にやって来た当初、インターナショナルスクールに通い、日米ハーフの広島弁を話せる生徒も多く、また家に帰ると近所の日本人の友達ともよく遊んだ。自然と広島弁もマスターした。→ しかしあるとき、学校側は校内で日本語の使用を禁じ、日本語の授業も初級編を除いてほぼ廃止された(日米ハーフたちの悪ふざけへの対抗措置?…詳細はP247)。 日米ハーフが多かったスクールに、両親ともアメリカ人の生徒が増え始めたのもその頃。…彼らは日本にシンパシーがなく、広島弁を話さず、日本のテレビも一切見ない。日本人に対して人種差別的な発言をすることもあった。…「そういう〝白人優位ネタ〟に卑屈に同乗する裏切り者のハーフを、僕は心の中で殴りつけました」

(※著者はこの頃は、「日本」の方にシンパシーを感じていた、ということか…)

→ そんな中で、著者は自分の尊厳を守るために、日本の小学校に通うことにした(5年生の二学期に転入)。…ところが、自分の〝日本人性〟を守るために来た日本の小学校で、大勢の生徒から一斉に「帰れコール」を受けたこともあった。…それでも(校長先生の指導もあって)最終的には周りの推薦で生徒会長になった。

(※う~ん、タフというか、適応力がすごい…さすがニューヨーク生まれ…?)

→ 私立の男子中学校に進学した後は、被爆者の祖父を持つ同級生と取っ組み合いのケンカをしたことや、原爆の爆風で傷痕だらけになったという書道の先生との葛藤もあった(詳細はP248~249)。

→ 中2の夏、著者は一時、アメリカに戻ったが、そこで待っていたのは「真珠湾野郎!」という罵り…向こうでは著者は〝東洋人〟。

(※う~ん、コウモリ的というか、帰属先のない根無し草的存在…?)

…白人からは差別を受け、同じように白人から差別されている黒人も、よりマイノリティな著者を攻撃する…。

(※う~ん、リアルな厳しい現実…)

→ 差別が日常的に内包された社会では、弱い者が弱い者を叩き、被害者が加害者となって別の被害者を生む…そんな現実を知った。

(※これは、極めて今日的なアポリアでもある…)

…当時のアメリカ社会は、原爆の歴史にも、先住民虐殺の歴史にも、黒人奴隷の歴史にも、まったく向き合っていなかった。

(※現在では、どこまで向き合ってきているのか…?)

「僕の目標は、日本に『革命』を起こすことです。ひとりひとりが自分を解放し、世界をフラットに見る視点を持ち、自分の頭で考えるべきことを考え、タブーなきディベートができるようになる――そんな『革命』。…今、ネット上では思想的に右か左に大きく偏った人の声が目立ちます。けれど、現実の世界で一番多いのは、どちらにも賛成できない中間層です。彼らは、はみ出るのを恐れて何も言わない。…そんなサイレント・マジョリティを解放したいのです。

(※吉本さんの「大衆の原像」にも通じる?)

この本を読んだ人たちがその第一歩を踏み出してくれたなら、こんなうれしいことはありません。」

(※「著者の紹介」だけでかなりの分量になってしまったが、この著者の「立ち位置の複雑さ」
の一端は示せたと思う。)


【はじめに】


○新たなる情報戦争の幕開け


 ・今、「兵器化された情報」が世界中で市民社会を蝕んでいる。…客観的事実よりも、ある個人や特定の集団にとっての〝都合のいい正義〟ばかりが巧みに発信・拡散され、それが本来あるべき「検証プロセス」を経ることなく、広く支持されるに至ってしまう…そんな事例が多発している。

・その強力なエンジンとなっているのが…英語圏などで急速に一般化した政治的なインターネット・ミーム(写真やイラストなどの画像に、コメントなどの文字情報を加えたもの)。
…先の米大統領選挙では、トランプ陣営だけでなく、ヒラリー・クリントンやバーニー・サンダースの支持派も、このミームを活用していたそう。→ その結果、今やミームは…人々の価値観が二極化したアメリカ社会の、分断の象徴になってしまった…とさえ言える状況。
…実はペンタゴン(米国防総省)も、かなり以前からこのミームの軍事利用(情報戦争)を研究していたよう。→ そして、米軍より前に、兵器化されたミームを効果的に利用したのは、IS(イスラム国)のテロリストたち。

・近年、こうしたSNSやミームといった〝拡散ツール〟を、煽動者たちが大いに利用しているが、もちろんこれは日本にとっても他人事ではない。

 〔※その例に…福島原発事故直後の、「科学的な検証を無視して放射能の危機をむやみに煽るようなデマ情報」(※上杉隆も入るのか?)が大量に拡散されたことが挙げられているが…政・官・財・学&メディアが形成してきた〝安全神話〟によって、的確・迅速な避難指示が出されず、地域住民の避難が遅れてしまった…という事実についての言及がまったくないのは、いささか公平性に欠ける感がある…

…(参考:『福島第一原発 メルトダウンまでの50年』烏賀陽弘道 →「震災レポート」38~40…『放射線ひばく CT検査でがんになる』近藤誠 →「震災レポート④」…これらは、「客観的事実による科学的検証の記録」)

…国際ジャーナリストのプロなんだから、福島原発事故に関するこれぐらいの資料は読んでから発言していただきたい。…せっかく「ガラパゴス言語の日本語」が読めるのだから…〕


○移民問題


・日本では「移民問題」の議論が遅々として進まないが、これだけ少子化が進み、その改善も見込めない状況では、将来的にはどう考えてもある程度は「移民」を受け入れざるを得ない。
…問題は「いつ」「どのような形で」受け入れるか、という点だけで、「やらない」という選択肢はない。
→ しかし、具体的な議論から人々が逃げ続けているうちに、デッドラインは刻一刻と迫っている。
…このままの状態で、あるときデッドラインが来てしまったら、間違いなく日本人はパニックになるだろう。

 (※最近では、北朝鮮問題の情勢次第では、日本列島に「難民」が押し寄せて来る…というシナ
リオが囁かれ始めているが…)

 ・「郷に入れば郷に従え」的にルールを強制し、それがいやなら追い出せばいい、という空気が醸成され始めたら、「拝外主義的なポピュリズム」の嵐が吹き荒れる条件が出揃ってしまう。
→ 欧米各国で猛威を振るう極右旋風は、いつ日本に上陸してもおかしくない、ということ。

・差別を糾弾したり、差別された人に同情したりするだけではなく、本当の意味での「共生」を模索しなければならない。
…それは〝とても面倒くさい作業〟になる。
→ 時代の針を戻すことができない以上、「議論する能力、物事を検証する能力」を上げていき、排他性よりも「多様性」を推し進めるしかないのだ。

(※この部分は説得力ありか…詳細はP12~13)


○「ガチンコの議論」に必要なもの


・日本の大衆には…重要なチョイスの責任を引き受けなくていい、最後はどうせお上(日本政府やアメリカ)が決めるんだ…という潜在意識や諦め(※お任せ民主主義)が、骨の髄まで染み付いてしまった世代が2,3世代いる。
→ いわゆる戦後レジーム(※対米従属?)の影響なのか、みんなが「自分にとって気持ちのいい殻の中に閉じこもるばかり」で、不都合なことは見て見ぬふり。ガチンコのディベートが起きない。

(※著者の〝日本体験〟からか…)

・日本の左派野党が、一向に存在感を示せない理由の一つはここにある。…ハードなディベートがない社会では、反体制側の主張が弱々しい。もともと思想を共有している仲間だけでいくら盛り上がっても、批判に耐え得る主張は生まれない。→ 現実味のない〝美しい物語〟(※理想論?)を、(無意識の部分では「まあ実現しないだろうな」と思いながら)言い続けるだけ。
→ その結果、体制との対話からますます遠ざかってしまう。

 〔※左派野党だけではなく、日本の場合は、政府与党も(メディアも?)「ハードなディベート」から逃げまくっているようだが…。また、中長期的には「理想論=あるべき未来の形」を言い続けることは大切だと思うのだが。…でないと、短期的な「リアリズム」ばかりで、息苦しいだけになってしまい、目指すべき方向性もわからなくなってしまう…〕

・(アメリカの例)…著者がハーバード大に在学していた1980年代のアメリカは…1960年代末からベトナム反戦運動、公民権運動、ゲイライツ運動などが盛り上がったことの反動もあり、保守派が盛り返して、共和党のレーガン大統領が強固な政権基盤を築いていた。

(※この流れは、日本でも同じではないか…)

・大学界隈にはリベラルな思想信条を持つ〝進歩派〟が多かったが、彼らは「このままでは民主主義が終わる、アメリカが終わる」と言いながら、現実を直視せず、戦略も対案もなく、ただ綺麗ごとを並べてレーガン政権を批判するばかりだった。
→ そんな体たらくでは、狡猾な共和党にダメージを与えることはできず、むしろ保守派の結束を強めるばかりだった。…「この状況、どこか最近の日本とダブって見えませんか?」…

(※確かに、「狡猾な共和党」を「狡猾な自民党」に置き換えれば、そのまま日本のことになるか…)

・ただしその後、次第にアメリカのリベラルは過去の失敗に学び、ハードなディベートを日常化させていった。

(※ここが日本のリベラルにはないところ…?)

→ その結果、もともと反体制側だった人が体制の内側に入り込み、仕組みそのものを変えるような「革命」があちこちで起こる(ex.ビジネスで大成功し、ルール自体を変えてしまったアップルのスティーブ・ジョブズ)。…ただのアンチ・エスタブリッシュメントではなく、中に入り込んで対流を生み出す…それが本当のカウンターカルチャー。…アメリカ初の黒人大統領のオバマも、広い意味で言えば出発点はカウンター。

(※う~ん、この著者の言う「革命」のイメージが少しわかってきた…)

・このようなハードなディベートを成立させるためには、その参加者たちが徹底的に「世界」を知っている必要がある。…終わりの見えない中東地域での紛争。…いつ着火するかわからない爆弾を抱えつつ巨大化する中国。…行き過ぎた資本主義の被害者たちが不満を爆発させ、社会や政治を不安定化させている欧米諸国。…こうした混乱に乗じて存在感を増すロシア…。

〔※こうした知っておくべき「世界」について、今の日本では、廉価な新書版に要領よく知識・情報がパッケージされて出揃っている…という利点があるように思うが…まあ、それも読まれなければ意味がないが…今日も、酒井啓子(中東の専門家)『9・11後の現代史』講談社現代新書 を買ってしまった…〕

・こうしたあらゆる要素が複雑に絡み合う世界の現状を無視して、「日本人や日本文化は特別に素晴らしい」とか、「改憲論者は戦争を起こす気だ」などと無邪気に主張する人のなんと多いことか。→ それでは世の中は何ひとつ変わらない。それどころか、そんなもろい人々は、一歩間違えば「兵器化された情報」の餌食となり、「煽動の波」にあっという間に飲み込まれてしまうだろう。

(※右派も左派もステレオタイプ化している、ということか…。また、「兵器化された情報」の餌食…「煽動の波」に飲み込まれてしまう…という点では、日本の国民は、戦前・戦中の歴史の中で、すでに〝前科一犯〟……そして、その〝失敗〟からどこまで学んできたのか…?)

…権力者も、排外主義者も、差別された人々も、そしてテロリストも、世界のあちこちでズル賢く社会を変えたり、自分たちの利益を実現したりしているのだから。

(※う~ん、〝現実主義〟の極致か…)

・ガラパゴスな日本では、今はまだ狭くて細かい〝棲み分け〟があるが、→ 今後グローバル化が進めば、〝あらゆるものが衝突しつつ存在するカオスな社会〟になる。
…そんな未来への漠然とした不安を持つのは無理からぬことだが、だからといって若い人たちが変化を恐れ(※最近、日本の若者たちの〝内向き志向〟や〝保守化〟が指摘されている…)、小さなノイズに反応して他者を叩いたり、〝決まり〟を守らない人を糾弾したり…と潔癖症になってしまうのはもったいないし、危険なことでもある。

→ 保守的・排他的になるのではなく、数パーセントの不利益やカオスを「多様性」として受け止めて許容し、それ以上の利益を生み出す社会にしていきたい。
…本書では、そのために知っておくべき世界の事象や、そこに至る歴史の流れをできる限り
紹介していきたい。


【1章】トランプ旋風と煽動政治(ポピュリズム)


・2016年、イギリスが国民投票でEU離脱を可決、アメリカでトランプが大統領選挙に勝利。
…2017年には、フランス大統領選で、極右政党の国民戦線党首マリーヌ・ルペンが決選投票にまで進出し、ドイツ連邦議会選挙では、反イスラム政党「ドイツのための選択肢」が第3党に躍進…。→ このように欧米では昨今、「多様性の時代」に逆行するような排外主義的な右派ポピュリズムが猛威を振るっている。
…自由な言論空間が保障された民主主義国家、しかも「リベラルな社会の融和」を徐々に進めていたように見える先進諸国で、こうした現象がなぜ起きているのか?…本章ではアメリカを例にとり、その構造と歴史的背景を見ていく。
・現在の煽動政治ブームのきっかけは、2001年の「9・11アメリカ同時多発テロ」にあったのではないか。
…アメリカでは9・11の直後から、しばらく〝愛国心一色〟となった。

→ その〝社会の揺らぎ〟に、ネオコン(軍産複合体絡みのタカ派政治勢力)が便乗し…メディアでは、右派系の大手放送局「FOXニュース」がブッシュ政権のお抱えメディアとして、イラク戦争の必要性を煽っていった。

(※政権の「お抱えメディア」というのは、どこの国にもあるのか…それにしては、この著者の、読売やフジ産経に対する言及はほとんどないが…?)

・また、当時はネットユーザーが日々増えていった時代であり、保守系ニュースサイト「ドラッジ・レポート」なども、そのムーブメントを下支えして、多くのアメリカ国民を〝右旋回〟させたのだ。

(※う~ん、これらの構図は、現在の日本の姿にも重なる…?)

→ その後、イラク政府の「大量破壊兵器保有」という開戦理由がガセネタだったとの観測が広まり、リベラル勢が巻き返して、アメリカ初の黒人大統領の誕生に至ったわけだが。

(※日本での「リベラル勢の巻き返し」は、あの「民主党政権の誕生」…?)

…今にして思えば、やはり9・11という事件によって排外的な意識(特にイスラム教への嫌悪意識)に「目覚めた」人が思いのほか多かった、ということだろう。
→ そして9・11以降、ガチンコのストリートファイトのごとき〝煽ったもの勝ち〟の時代へ突入していった…。

・その一つの象徴が、既存のルール自体を真っ向から否定するような言説の広がり(ex.選挙に負けたら、それを受け入れるのではなく、「陰謀だ」「不正があったからだ」と逆ギレ…)。
→ こうした論理展開は、その後ネットで(特にソーシャルメディア上で無名の市井の人々が声を上げられるようになったことで)、一気に拡散していった。…しかも、その広がりは一国内にとどまらず、欧州など世界中へ浸透していったのだ。

・煽動とは…予期せぬことが起き、社会が不安に苛まれたとき(そしてその対処について世論が二分されるような事態のとき)、ここぞとばかりに敵方勢力を攻撃する目的で行うもの。
→ テロや天災、あるいは原発事故といった突発的な危機に対し、国民が冷静な判断力を欠い
たときこそ、「今まで皆さんは騙されてきたんです!」「目を覚ましてください!」という言葉が驚くほどよく染み渡る。…そういうスキだらけの状態に乗じて、不安心理を極限まで高め、どんどん影響力を拡大していくのだ。

 〔※う~ん、この論調では…例えば、原発事故直後、いち早く(情報源を明示し、専門家にも確認して)「メルトダウンの可能性」を発信した上杉隆なども、「煽動」になってしまうのか…?
逆に上杉隆などに言わせれば、この著者の論調の方が「安全デマ」に加担したことになるが…

…参考:『地震と原発 今からの危機』神保哲生、宮台真司ほか →「震災レポート②」…雑誌「SIGHT」Vol.48 →「震災レポート③」…『報道災害【原発編】』上杉隆、烏賀陽弘道 →「震災レポート⑤」など〕

・こうした文脈で、アメリカにおけるトランプ旋風をひも解いてみる。
…当初は泡沫候補の一人と見られた、汚い暴言を吐きまくる老人が、なぜ大統領になったのか。…一つのポイントは、トランプが多くのメディア(特にリベラル系メディア)を散々罵倒し、挑発し続けたこと。→ そして、その戦略に、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった超一流メディアがまんまと乗ってしまった。

・当初、彼らはひたすらトランプの失言を引用し、「バカ」と言わんばかりにこき下ろすだけで、言葉狩りのような低レベルな批判に終始。→ あれでは、トランプお得意の「既存メディアはバカでウソばかり」という陰謀論交じりの主張が、さらに支持されるだけ。

(※う~ん、リベラル派は、相手を見くびった揚げ足取り的な低レベルの批判だけでは、それこそ足元をすくわれる、ということか…)

・それにトランプは、ただ好き勝手に暴言を吐いているのではなく、「聴衆の本音を揺さぶる言葉」を選んだ上での〝煽り〟だった。…そして、(日本人がなかなか理解しづらいところなのだが)アメリカの庶民はスーパーリッチが大好きで、マフィア的なものへの憧れもある。
…その意味では、トランプという人物は〝ど真ん中〟なのだ。

(※確かに理解しづらい…)


 (1)トランプの「ネタ元」は誰なのか?


 〔※トランプの〝煽動スタイル〟の「ネタ元」として、何人かの人物や組織が挙げられているが…(P22~39…トランプという「モンスター・ポピュリスト」を生み出した、〝きれいごと抜き〟のアメリカ政治の実態を垣間見た思いで、大変勉強になった)…長くなりすぎるので、特に印象に残った箇所をいくつか挙げてみる。〕

①マッカーシズム(反共産主義運動)の時代から連綿と続く「白人右派」の本流…
…白人が汗を流して働いた金が、税金として吸い上げられ、怠け者の非白人にバラまかれる。…白人が長年築いてきた雇用が、アメリカの外に流れていく…。
→ このようなディストピア的な強迫観念は、トランプの演説に乗って白人有権者に広がっていった。…グローバリズムによって白人たちの〝特権〟が次々と取り上げられていく恐怖、絶望、怒り…。→トランプは、(適度な陰謀論をスパイスとしてまぶしながら)それを刺激して、キリスト教右派の人々を惹きつけた。

・トランプの演説は同じことの繰り返しで、中身もない…それはある面では事実だが、かといってそういう批判だけでは、彼の〝マジック〟の正体は見えてこない。
…深刻なのは、トランプが大統領に就任したからといって、彼を支持する人々が満足する世の中にはならない…ということ。
→ グローバリズムが止まらない以上、中産階級以下の白人層の没落も止まることはない。
…言い換えれば、またいずれ「第二、第三のトランプ」が出現する下地は引き続き残っている。
→ 白人たちに〝煽動に乗ることの快感〟を刷り込んだトランプは、アメリカ社会のパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。(P26~27)

②ジョージ・ウォレス(人種隔離を訴えた南部戦略の父)…1958年の南部アラバマ州知事選初出馬の際に、全米黒人地位向上協会の支持を受け、リベラルな主張で選挙を戦ったが、人種差別を是とする候補に完敗。→「南部で勝つには差別心を煽るしかない」と悟り、黒人差別派に転向し、1962年に知事に就任。→ 公民権政策に舵を切る連邦政府を強く糾弾し続け、「公民権運動と戦う勇敢な男」として全米的な人気を得た。

(※ただ勝ちゃいいのか…)

→ 2016年の大統領選挙候補争いでは、最も巧みに過激発言を操り、南部白人層を熱狂させたトランプは、まるでこのウォレスの時代にタイムスリップしたかのようだった。

 (※う~ん、アメリカ政治のディープな現実…詳細はP27~32)

③「このままでは、イスラム教が欧米のキリスト教世界を侵食する」…恐怖を煽って支持を得たい「ネオコン」…自分たちだけが正しいと思い込む「キリスト教右派」…中東利権を確保したい「石油業界」…戦争が利益に直結する「軍需産業」…それぞれの思惑が絡まり〝反イスラム〟というパラノイアな世界観は巨大化。
→ そして2001年にあの9・11が起きると、ジョージ・ブッシュ政権は…「みんなで危機をでっち上げる」という方向に舵を切り、泥沼のイラク戦争へ突入していったのだ。

 (※う~ん、トランプがこの〝二の舞〟を演じてしまう…という恐れはないのか…?)

・超大国アメリカで〝ムスリムへの憎悪〟が拡大し、軍事行動に至る。→ その反動として、〝反米テロ〟が起こり、アメリカでさらに〝ムスリムへの憎悪〟が加速する…。
…そんな最悪の連鎖の中心にいる専門家・ウォーリッド・ファレス(反イスラムのイデオローグ)が、トランプの「外交政策アドバイザー」の一人。
…そんな人物が〝ネタ元〟だったのだとすれば、トランプの反ムスリム発言があれほど過激
化したのも納得できる。(P32~34)

④ロジャー・ストーン(選挙を〝茶番化〟する男)…若い頃にウォーターゲート事件にも関わったことのあるこのストーンの特徴は、「どれだけ汚いことをしても、選挙は当選した側の勝ち」という徹底した(というより度を越した)リアリズム。
…現在の米政界ではもはや当たり前になっている、テレビCMなどで対立候補に対する(虚実ない交ぜの)ネガティブキャンペーンを展開する方法も、彼が最初に編み出した、と言われている。その意味では、ストーンは、昨今の「フェイクニュース」の生みの親とも言える。
→ このストーンも、ロシアとの関係も含めて、トランプの政治活動をバックアップしていると見られている。

 〔※う~ん、「どれだけ汚いことをしても、選挙は当選した側の勝ち」という(度を越した)リアリズムは…昨今の安倍政権をホウフツとさせる…?〕

⑤WWE(超人気プロレス団体)…トランプは過去、WWEのイベントにたびたび登場し、多くのファンを熱狂させてきた。…2013年にはその人気ぶりが評価され、WWEの殿堂入りを果たしている。
→ そして、トランプのプロレス的なパフォーマンス術は、米大統領選挙にも大いにフィードバックされた。
…トランプに言わせれば、オバマ前大統領も、メディアも、さらには共和党主流派でさえも、すべてが〝強いアメリカ〟の敵。→ 自分だけが、そんな全方位の敵と戦い続ける〝勇気あるならず者〟…。

・トランプが大統領候補として提示し続けたパラノイア的な世界観に引き込まれる支持層は…実のところ、WWEの大味かつ劇的な世界観を好む層と、かなりの部分で一致している。
…言い換えれば、トランプはこの層に訴えかけるのが実にうまいのだ。

〔※う~ん、〝実にプロレス的〟な手法で、保守層の支持を掘り起こすことに成功したトランプ…。そして、そのトランプと〝大のお友だち(というよりポチ?)〟の安倍晋三…。
→今後アメリカと、それに〝従属〟している日本とは、どこに向かって漂流していくのか…?〕

(2)現代アメリカの怒れる白人たち


○アメリカ政治はパラノイアの歴史


・アメリカ政治史には、ずっと「外敵に侵略される」というパラノイア(偏執病、妄想症)が息づいている。
…政治がまだ未熟で不安定だった建国直後のアメリカでは、そんな陰謀論めいた話(詳細はP40)が、政争の具として使われてしまったが…こうしたパラノイアは、その後も同じようなパターンで、中身の〝ネタ〟だけを変えて繰り返し流行した(ex.〝フリーメーソン〟〝ユダヤ金融資本〟など)。
→ また、パラノイアは大衆のみならずエリート層にもしばしば浸透していく(ex. 1950年代のエリート層による「赤狩り」の暴走…)。…これを逆から見れば、時の権力者や有力者たちは、国民の恐怖心、勘ぐり、憎しみを巧みに煽り、特定の投票行動を促してきた、ともいえる。

(※このことは、今の日本も他人事ではない…)

→ とりわけ共和党は、「敵か味方か」の二元論的な世界観を持つキリスト教右派、白人優位主義の極右派を取り込んでいる。
…彼らにとっては、黒人もムスリムもユダヤも(※アジア系も?)、すべてが潜在的な「外敵」であり → だから〝我々のアメリカ〟を守るために、市民の武装権=銃保有の自由、が重要なのだ。

・トランプの極端な排外的発言や差別的発言が、それなりに支持を得ていることが、アメリカ社会に今も連綿とパラノイアが巣食っていることの、何よりの証だろう。


○連邦政府を敵視する民兵


・「合衆国憲法修正第2条」…「規律ある民兵(ミリシア)は自由な国家の安全保障にとって必要であるから、国民が武器を保持する権利は侵してはならない」…この条項は、18世紀にイギリス帝国の植民地政策に反発したアメリカ国民が、武装蜂起して独立を宣言したこと…に端を発している。

・つまりアメリカでは、「圧政を敷く国家権力」に対して、国民ひとりひとりが武力を持つ権利と、民兵組織をつくる権利が、憲法ではっきりと認められているのだ。→ どんな凄惨な銃乱射事件が起きようとも、全米ライフル協会(NRA)などが強気の主張を崩さず、銃規制が実現しないことの背景には、この「修正第2条」の存在がある。

・2016年1月にオバマ大統領が、大統領令による銃購入の規制強化を発表したが → これに対して銃規制反対派は、「黒人大統領が、この国をつくった白人のかけがえのない権利を剥奪しようとしている。これは非白人による〝乗っ取り〟だ」…と、お決まりのパラノイアが肥大化し、反政府派ミリシア(民兵集団)の活動が活発化していったのだ。


○第二の独立戦争に備える米軍兵


・「国民が銃を持って自分たちのために戦うことは、建国以来の伝統だ。本当のアメリカを取り戻さなければならない」…こういった思想は長年にわたり、白人至上主義を標榜する極右派や、様々な陰謀論を信じる人々の間で伝承されてきた。

(※中にはオウム真理教のような新興宗教団体による立てこもり事件もあったよう…具体例P45~47)

・近年、アメリカではミリシアがますます存在感を増している。…その背景にあるのは、白人の人口比率の低下や、グローバリズムによる格差拡大といった〝白人の受難〟。
…しかも、そんなときに史上初の〝黒い肌の大統領〟が誕生し、銃規制を進めようとした…。
→ 彼らの結束力は高まる一方で、退役軍人やイラク、アフガニスタンからの帰還兵たちがミリシアに参加するケースも増えている、と言われている。

・ベトナム戦争以来、軍人には〝汚れ仕事〟という認識も強くなっており、軍人になるのは貧しい白人か(※経済的徴兵制)、永住権の欲しい有色人種の移民。…しかも、退役後はなかなかまともな仕事にありつくこともできない…。
→ そんな中、何かに目覚めたかのように突然〝歪んだ正義〟を語り出すようになる軍人・元軍人が増えているよう…。

・陰謀論を煽りまくる極右メディアがいて、それを信じる、あるいは信じたい人がいる。
…まさに“I WANT TO BELIEVE”の世界。→ アメリカの最大の敵は、イスラムでも移民でもなく、〝内に潜んだ建国以来の狂気〟…なのかもしれない。


○ポリティカル・コレクトネスの暴走


・ミリシアのような過激さはなくとも、最近はアメリカ社会におけるある種の〝息苦しさ〟にうんざりしている人(特に白人)が少なくない。…その原因は、ポリティカル・コレクトネス(PC)のあまりに〝過剰な推進〟という社会的圧力。

・PCはもともと1980年代に始まった、「差別・偏見を取り除くために〝政治的に正しい用語〟を使おう」というムーブメント。
…性別、人種、民族、宗教、職業…といった分野において、〝明らかな悪意のある言葉や表現〟を是正する必要性については、多くの人が賛同するだろう。
→ しかし、最近では社会の現実を無視し、原理原則だけでPCを過剰に推し進めた結果、かえって世の中が混乱してしまっているケースが多々見られる(特にアメリカの大学のキャンパスは、今や〝ウルトラPC状態〟)。

・アメリカでは昨今、公の場で「言ってはいけないこと」や「反論してはいけないこと」が多くなりすぎた。→ 悪意の感じられないものまで一緒くたに〝言葉狩り〟されている…という印象。

(※う~ん、この問題は、アメリカほど進んだ形ではないかもしれないが、日本でも表面化しつつある課題か…。ただ、逆ブレが過ぎると、また〝反動〟に陥る恐れも…)

・〝政治的な正しさ〟を、誰が判断し、どこに線を引くのか…これは非常に難しい問題。
→(アパルトヘイトを終わらせたネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領の言葉を借りれば)…重要なことは「いかにして真実と和解するか」…歴史的事実を咀嚼しつつ、今の時代に合った現実的な落としどころを見つけるしかない。

 (※これは「慰安婦問題」などにも言えることか…)

・大統領選挙におけるトランプ旋風も、こうした〝PCの暴走〟に対する〝白人層の反発〟が、一つの原動力になっていたように思う。
→ 多様化が進んだ近年のアメリカでは、人種差別的な言動は明らかに「PC的にアウト」。
…しかし、それでも黒人やほかの有色人種に対して〝ある種の優越感〟を内心抱いている白人は決して少なくない。

(※このことは、ヨーロッパでも同様か…?)

→ グローバリズムの影響で、豊かさから見放された一部の白人層が、その〝根拠のないプライド〟の行き場として、トランプを支持した…という構図。
…PCが広まれば広まるほど、逆説的にトランプの差別的発言は、「本当のことを言ってくれるのは彼だけだ」と、一部の(しかし決して少なくない)人々に支持され、際立っていったのだ。

(※これは、〝日米ハーフ〟の著者自身も、アメリカなどで体験してきた差別の〝リアルな現実〟に裏打ちされた認識か…)


○白人至上主義の「入信者」と「脱会者」


・元KKKの両親を持つ青年(デレク・ブラック)は、周囲から徹底的に〝思想教育〟を施されて育ったが…リベラル系の大学で学んだことをきっかけに、白人至上主義の〝欺瞞〟に気づき始める。
→〝白人の優位〟を証明する事実などどこにもないどころか、歴史上、白人たちは宗教に縛られて殺し合うばかりで(中世欧州の歴史など)、数学や天文学などもアラブ世界で発明された学問の〝借り物〟にすぎない…。
→ ずっと信じてきたものが、粉々に崩れていくことを感じたデレクは、トランプ旋風真っ只中の2016年9月、白人至上主義からの離脱を正式に表明したのだ。

 (※これは希望の持てるエピソードか…)

・そして、デレクがかつて携わっていた白人至上主義系掲示板サイトのメンバー条件…「100%欧州系の白人(ユダヤ人を除く)」…に関して、遺伝子検査の結果、本当に(彼らのいう)「純粋白人」だったユーザーは、わずか3割程度にすぎなかった…。

・考えてみれば当然のことだが、遺伝子検査レベルで「人種が混ざっていない人」など、多民族国家アメリカでは、もはや少数派。…現代ではそもそも「純血」なるものに根差した議論自体が、厳密に調べれば破綻してしまう性質のもの。
→ それでも彼らが〝白人優位の人種序列〟という〝物語〟にしがみつくのは、それによって〝自尊心〟が満たされるから、にほかならない。

・こうした差別的かつ非科学的な詭弁を、アメリカ社会は長年かけて駆逐してきたのだが…
そこにトランプという大統領が自らお墨付きを与えたおかげで、再びパンドラの箱が開いてしまったのだろう。ただ、こうして外から冷静に見れば、白人至上主義の〝イタさ〟は明白だが…これが国内問題になったらどうだろうか。
→ 日本でも、すでに経済的・社会的な拠り所を失いつつある人々が、〝根拠なき日本礼賛物語〟や〝日本人優位論〟にしがみつく傾向が見える(昨今の中国や朝鮮半島に関するニュースへの反応など)。

・崩壊寸前で踏みとどまろうとする自尊心の…裏にある「差別の萌芽」。→ それが何かの拍子に拡大したとき、人間社会はそう簡単に止める術を持たない。…「転げ落ちるアメリカを見ると、日本のそんな未来を想像せずにいられないのです」。

 (※う~ん、〝日米ハーフ〟の面目躍如! といったところか…)


(3)Alt-Right とフェイクニュース


○スティーブ・バノン――ホワイトハウスに入り込んだ〝鬼の子〟


・Alt-Right(オルトライト)は、インターネットを主戦場とするアメリカの極右政治ムーブメント。…白人至上主義の色が濃く、〝多様性への嫌悪感〟を隠そうともしない攻撃性がその特徴。

・従来の保守(共和党主流派)に取って代わり、「強いアメリカ」を復活させる。

(※「日本会議」に似てる…?)

→ そんな大義名分を掲げるこのムーブメントのコアにいるのは、公務員や有名企業勤務を含む30代から40代の高学歴白人男性と言われている。…彼らは、現在のアメリカが「多様性を重んじるあまり弱体化した」と主張し…人種差別、反フェミニズム、反PC…などの過激な言説を匿名でネットにバラまき、人々を煽動している。
→ さらに、その下には10代、20代の白人大学生の〝突撃部隊〟がいて…ネット掲示板を中心に、ヘイトや陰謀論を日々拡散。→ ひとたび攻撃対象を見つければ、SNSなどで集中砲火を浴びせる。

(※日本も似たような状況…?)

・こう聞くと、まるで日本のネトウヨ(ネット右翼)のようだ、と思う人もいるかもしれないが、Alt-Rightの影響力はそんなレベルではない。→ ジャーナリズム的な手法とミームなどのビジュアルを併用して、多くの若者を取り込むなど、相当に組織的かつ戦略的に動いている。

・そのプラットフォーム(意見表明の場)になっているのが、攻撃的な極右ウェブメディア「ブライトバート・ニュース」。…FOXニュースなどの保守系メディアよりもはるかに過激で、虚実ない交ぜの飛ばし記事や極端に偏った主張のコラムも多いのだが、それでいてかなりの集客力があり(※う~ん、アメリカは大丈夫なのか…?)、大統領選挙当初からずっとトランプを支持してきた。
→ そのかいあって、スティーブ・バノン会長(当時)は、その後ホワイトハウスの中枢まで上り詰めた。
…デマをもいとわぬ極右ニュースサイトが、大統領選挙勝利の原動力となり、かつその元代表者がアメリカ政治の中心に座る…。ひと昔どころか、2,3年前でもとうてい考えられなかったような話が現実となったのだ。

(※さすがにその後、解任されてしまったが…)

・Alt-Rightの過激思想は、KKKなどの〝ガチ差別団体〟にも支持されており、リベラル系メディアもその点を批判している。→ しかし、Alt-Rightの主力層は、逆にそれを「過剰反応するバカ」とネタにして冷笑…。

・この非常に狡猾な二重構造……陰謀論やガセ交じりの記事を真っ正面から信じる〝情弱〟を釣り上げつつ、もう少し知的な人々も同時に満足させる…という構造も、Alt-Rightの大きな特徴として知っておく必要がある。…彼らは、単なる極右軍団ではなく…アメリカ社会のリベラル化、多様化、そして急速に進むグローバル化…に対する反動から生まれた〝鬼の子〟…といっていいだろう。

(※う~ん、「日本会議」にも通底する…?)


○マイロ・ヤノプルス――アイドルは〝オカマ野郎


・マイロ・ヤノプルス(「ブライトバート・ニュース」の編集者兼コラムニスト)は、Alt-Rightを支持する若者たちのアイドル的存在だが、彼の名が知られ始めたのは、「ゲーマーゲート事件」。
…ゲーム内における女性差別の風潮を批判した女性ゲーム開発者や女性批評家が、ネットに巣食う多くの男性ゲーマーから徹底的に糾弾され、個人情報をさらされる事態となった騒動。
→ このとき、多くのネットユーザーを煽り立て、炎上劇を拡大させたのがマイロだった。

・このように、マイロは集団行動に快楽原則を与え、炎上案件に油を注ぐことで知名度を上げていった。→ ゲイ、ユダヤ系という自らの〝被差別属性〟をチラつかせ、弱みをさらけ出しながら(※これがミソか?)、別の差別を焚きつけるマイロは、言うなればマジョリティの〝表では言えない本音〟を代弁する〝模範的マイノリティ〟として、人々の差別意識にある種の正当性を与えたのだ。

(※う~ん、末期的なメンドクサイ世の中になってきた…という印象だが、だからこそ、こうした現象をきちんと分析・検証していく必要があるのだろう。)

・マイロを熱狂的に支持する層は、白人の大学生だと言われている。
→(マイロの言い分)…「私は憲法で認められている表現の自由を守っているだけだ。なぜ、フェミニズムや有色人種というテーマに関してだけ、憲法の適用範囲が違うのか?」
…詭弁とはいえ、その言葉には一定の真理も含まれている。→ 行き過ぎたPC(ポリティカル・コレクトネス)にうんざりする多感な若者たちは、そこに揺さぶられるのだろう。
…地頭はいいけれども、社会経験の少ない若者が、コロッとカルトに入信してしまうようなものだ。

・公民権運動やフェミニズム運動などを通じ、苦しみながらも多様な社会を実現してきたアメリカで、反動的に生まれた稀代の〝煽り屋〟マイロ。
→「ありのままで」ヘイトを口にするマイロの開放感に熱狂した若者たちは…その先には〝多様性の否定〟という「民主主義の終わり」しかない…ということをいつか理解するのだろうか。


○フェイクニュースはフェイスブックで広がった


 ・ひと昔前の時代は、良くも悪くもマスメディアが言論を支配していた。…過激で偏った言説は、大新聞のデスクやテレビ局のディレクターの倫理感やバランス感覚によって検閲されていた。

・ところが、インターネットが普及し、有象無象のネットメディアやSNS上の「ネット世論」が力を持つにつれ、状況は一変…。
→ 相対的に力の落ちたマスメディアは、本来の責任を放棄し、ネット世論に引きずられるように「客が喜ぶ派手なネタ」をなりふり構わず提供するようになった。
→ その結果、2016年の米大統領選挙では、あらゆるプレイヤーが〝情報戦〟に参加。…果ては、まったく関係のない欧州の小国マケドニアに住む青年たちまでが、小遣い稼ぎのためにネットユーザーにウケそうなデマニュースをせっせと作成し、配信していたのだ。
→ こうして「兵器化」されたニセ情報=フェイクニュースは、アメリカをあっという間に飲み込んでいった。

・その主な拡散ツールとなったのは、フェイスブック。
…最近では、相当数のアメリカ人が(紙の新聞や特定のニュースサイトではなく)、フェイスブックの「トレンディング」(話題になっているニュースのリスト)からニュースを読む生活習慣へとシフトしている。

→ それに従って、フェイスブック内でのアクセス数拡大を意識したページづくりをするニュースメディアも増え、センセーショナルな見出しの記事が量産される傾向にある。
…大統領選挙で言えば、(中道のヒラリーを冷静に評価する記事は盛り上がらず)、広く拡散されるのは急進的左派のバーニー・サンダースを支持する記事、そしてトランプを支持する記事がほとんど。…もちろん、その中にはAlt-Rightが関与したものも少なからずあったはず。

・こうした極端な記事を好む人々の中に、情報の真偽や一次ソースを自ら確かめようとする〝検証型読者〟は、ほとんどいない。→ 自分の価値観を補完してくれる気持ちのいい記事やミームを見つけると、ひたすら拡散する。→ それがさらにシェアされ、フェイクニュースが際限なく広がっていく…。

・こうした行動パターンを持つフェイスブックユーザーが億単位にまで膨れ上がると、そこにいくつかの「世論」が生まれる。…Alt-Rightにしても、そういう状況下で右寄りの思想を持つ人々が、雪崩を打って現実の世論に影響を及ぼすほど肥大化したのではないか…。

・ちなみに、フェイスブックのトレンディングで取り上げられるトピックスのラインアップは、かつては外注のキュレーターチームが調節していたが…2016年5月、匿名の内部告発によって、「左派寄りの記事を意図的に取り上げている」との疑惑が浮上すると…フェイスブック側は火消しのため、人間のキュレーター(情報管理者)を排除。→ 無人のアルゴリズム(コンピュータの問題解法手順)方式へ移行した、という経緯がある。
…ただ、このアルゴリズムは、導入直後にいきなり〝ガセ記事〟を拾ってトレンディングに表示してしまう事件を起こすなど、その精度には大いに疑問が残る(改善は図られているだろうが)。

・いずれにしても、「ユーザーを左右両極に振り分ける」という、フェイスブックをはじめとするソーシャルメディアの基本設計が変わらない以上、極端な主張をする勢力は、それを最大限に利用して支持拡大を図る。
…その象徴ともいえるのがAlt-Rightであり、彼らの後押しによってトランプ政権入りを果たしたバノンなのだ。

→ ひと昔前ならマスメディアに黙殺されていたような人間が、ホワイトハウスの住人になる…
…そんなアメリカでは今後、ネオナチまがいの言説がノーマライズ(常態化)され、従来は極右と呼ばれていたような言説も、「普通の右派」くらいの位置づけになっていくのかもしれない。

・残念ながら同じことは近い将来、日本でも十分に起こり得る。→ なぜなら、日本社会のベースには、一歩間違えれば排外主義の種になりかねない「潔癖」という体質が潜んでいるから…。

 〔※ここで、その「潔癖」という体質の具体例として…「放射能、TPP、子宮頸がんワクチン、大麻など」に対する〝過剰反応〟(恐怖、穢れの意識)が挙げられているのだが…いきなり相互に全く関係のない事柄を十把一絡げにして論じているが、当然のことながら説得力はあまりなし。…思うにこの著者には、たまにこうした雑で荒っぽい論調が見られるのだが(特にリベラル批判のとき?)…「自叙伝」から推察すると、ちょっとヤンチャな生来の性格からくるのかもしれない…詳細はP64~65〕

・日本では、多くの人々が目の前にある重い課題をゼロベースで考え抜くことを放棄し、「信じたいことを信じる」傾向が強くなる。…大きな同調圧力も生まれる。

→ この〝脆弱な言論空間〟に、スマートな情報操作を行う集団が現れたらどうなるか?…たとえ「極右政権誕生」という形をとらなくとも、様々な形で排外的な空気が社会全体に染み渡っていく可能性は極めて高いだろう。

(※すでにそうなりつつある…?)

・マスメディアが没落して、あらゆる情報が水平化した現代社会では、情報の信頼性や真贋、そして〝奥行き〟を、受け手側が判断しなければいけなくなったのだ。

 〔※この著者にも、先ほどの唐突に例示された事柄に関して、〝奥行き〟のある分析・検証
をお願いしておきたい…〕


○欧米を覆うアンチ・エスタブリッシュメント


 ・政治家としての経験も実力も、トランプとは比べ物にならないヒラリーが、まさかの敗戦を喫するに至った理由……その最も大きかったもの(そして、日本をベースに生活している著者が感じることのできなかったもの)は、おそらく「アンチ・エスタブリッシュメント」なのだと思う。

・(1970年代前後に全米を席巻したベトナム反戦運動のような先進的な〝反体制〟ではなく)…とにかく〝既存の秩序の側にいる人間や組織〟を敵対視する…というのが、現代におけるアンチ・エスタブリッシュメント。

(※論理的というより、極めて〝情動的〟ということか…?)

→ 政治のプロであればあるほど、何を言っても忌み嫌われてしまう。…ヒラリーは、初の女性大統領候補であっても、「エスタブリッシュメントのど真ん中」…と見られてしまったのだ。

・(日本にいるとあまり実感できないが)アメリカ社会の〝格差問題〟は深刻だ。→ 多くの人が未来への希望を持てずに取り残され…(「もう少し再配分をきちんとしてくれ」という建設的な議論を飛び越えて)…「自分は今の社会構造から排除されていて、その分を一部の人間(=エスタブリッシュメント)が不当に横取りしている」というような〝強烈な被害者意識〟を持っている。
→ もはや失うものがない(と感じている)人々が、〝破壊的な変化〟を求めて、アンチ・エスタブリッシュメント化している…という構図。

〔※う~ん、この構図は、近未来(早ければ東京五輪後?)の日本の姿…? それとも、それはすでに密かに始まっている…?〕

・ドラスティックな変化を求める人たちは、右側でトランプを、左側ではサンダースを強く支持した。…トランプは、とにかく既存の秩序を壊すことを約束し続けた。
…サンダースも、敗色濃厚になった予備選の後半、「国際金融」や「ウォールストリート」を批判するあまり、陰謀論めいた主張をブチかました。→ たとえ確たる事実に基づかない話であっても、多くの人々はそこに望みを託したのだ。

・こうしたムーブメントがここまで拡大したのも、一般市民がソーシャルメディアというツールを得て、デマや偏りすぎた主張を検証もなしに拡散できるようになったからだろう。
…キャッチコピーや見出しの強烈さとは裏腹に、その多くはよく読めば論理破綻しているのだが、個人個人の中で事実よりも「気持ちよさ」が勝ってしまうと、その「事実ではないもの」がいつの間にか既成事実化していく。

・こうした潮流は〝ポスト・トゥルースの時代〟といわれ、アメリカのみならず欧州各国でも極右政党が躍進するためのエンジンとなっている。 (※そして日本でも…?)
→ ただし、こうした人々の怒りを利用する政治家は、大きなリスクを背負っている。それは、いつその怒りが自分に向かってくるかわからない、ということ。…トランプの政権運営は、自らに一票を投じた人々による有形無形のプレッシャーと隣り合わせなのだ。


○リベラル・フェイクニュース


 ・米大統領選挙では主に右寄りのフェイクニュースが問題視されたが…トランプ大統領の就任後は、それと逆の「リベラル・フェイクニュース」も目立ってきている(P68~69に具体例)。
→ 大統領選挙では右派系フェイクニュースを厳しく批判したリベラル陣営の人々が、なぜこんなデマに騙されてしまうのか。…彼らは常に、自分が正しい側にいると信じている。それゆえに「思ったとおりのニュース」を目にしたとき、とりわけそれが信頼する知人や言論人がシェアしたものなら、その真偽を確かめないで拡散に参加してしまう。

→ ところが、フェイクニュースの発信元のほとんどは、報道機関と呼べるようなものではなく、単純な利益目的の業者。…政治的な信念など持たず、〝右仕様〟と〝左仕様〟のフェイクニュースを次々と粗製乱造し、両陣営の客からページビューを稼ぐ…実においしいビジネス。

・ちなみに、ある調査によれば、右にしろ左にしろ、フェイクニュースを信じやすい人ほど選挙での投票率が高い、とのこと。→ つまり、業者が金儲けのために流したウソが、やはり選挙結果に直結している、ということ。
…フェイクニュースを信じる人を嘲笑するのは簡単だが、→ そのツケは結局、騙された人もそうでない人も、選挙結果という形で平等に支払うことになる。

 〔注記……日米の高校・物理の教科書比較…日本の教科書(授業も)は、薄っぺらで暗記・詰め込み式で、つまらなくてやる気を失ったが…(後で知った)アメリカの高校の物理教科書は、百科辞典みたいに厚くて(ハーバード大学の学者たち百人余が四年がかりで作り上げた)、生徒の知的好奇心を喚起するために、様々な工夫を凝らしたものだった。
…(後年、日本びいきの著者の両親でさえ、「二つの教科書の違いを、あのとき知っていたら、日本留学を考え直していたかもしれない」と言っていたそう…)また、高校のカリキュラムも…日本(広島の私立高校と富山県の県立高校を体験)は、受験用の暗記・詰め込み式で、無意味で息苦しく…アメリカのように大学との連携も考慮された合理的なものではなかった、とのこと…
…一事が万事で、学問におけるアメリカの底力か。→著者が、違和感を感じて東大をすぐ辞めてハーバード大へ行ったのは正解だった、ということか…『よくひとりぼっちだった』P184~196より〕


(4)ポピュリスト大統領の今後


○危険すぎる反ユダヤ主義勢力


・2017年の国際ホロコースト記念日…
…就任したばかりのトランプ大統領の、その記念日に際しての声明に、「ユダヤ人」あるいは「反ユダヤ主義」という言葉が一つも見当たらなかった。…これは、「事件」と言ってもいい極めて異例のこと。

・これに対して…トランプ政権はホロコースト(ナチスによるユダヤ人の大量虐殺)という歴史的事実に、〝歴史修正〟を試みているのではないか…という疑念が囁かれた。

・では、この声明の裏に潜む〝黒幕〟は誰だったのか。→ おそらく、あのバノン主席戦略官(当時)だろう。
…過去の言動を見ても、白人至上主義、反ユダヤ主義、反LGBT…あらゆる差別のオンパレード。
→ ホワイトハウスの中枢にまで入り込んだ彼は、その極右思想を政策の端々に紛れ込ませ、徐々にノーマライズ(常態化)させていこうとした。

・トランプを支持したアメリカの〝不寛容な白人層〟に、反ユダヤ主義的な思想が浸透しており…そこに訴えかけるポピュリズムの道具として、バノンが選挙期間中からこうした〝スパイス〟を随所に加えてきたことが、極めて危険なのだ。

(※でも最近は、トランプはイスラエルの方に肩入れしているようだが…? 「ユダヤ人問題」は難しい…)

・「ユダヤ人だけが特別視されるのはおかしい」(反ユダヤ主義者の常套句)
…この「ユダヤ人」を、例えば「黒人」や「女性」や「LGBT」といった言葉に置き換えてみれば、その危険さがわかるだろう。

(※「反ユダヤ」をきっかけに、さらに差別が広がる、ということか…)


○周辺にちらついたロシアの影


・「アメリカは白人のものだ!」「ヘイル・トランプ(トランプ万歳)!!」…トランプの勝利を祝う会合で、こんな演説をした人物=リチャード・スペンサー…Alt-Rightムーブメントの中心人物の一人で、白人優位主義や反ユダヤ主義を標榜する「国家政策研究所」代表。
→ 大統領選挙では、彼の言動が若い白人たちの投票行動に相当な影響を与えた、とみられている。

・トランプが覚醒させつつある21世紀の「アメリカン・ファシズム」
……実はそこには、かつてアメリカと激しく対立していたロシアの思想的影響が、色濃く表れている。
→ そのカギを握るのが、アレクサンドル・ドゥーギンというロシア人。…モスクワ大学教授で、ロシアがユーラシア大陸に君臨するという「ネオ・ユーラシア主義」を提唱。→ プーチン大統領の最側近と言われている。

・このドゥーギンは、その白人優位主義的主張を拡大すべく、世界各地の排外主義者たちを啓発する、ロシア的思想の拡散役でもある(※詳細はP75~77)。

→ 実は前述のスペンサーも、以前からプーチン大統領を称賛するなど〝親露派〟の姿勢が目立っていたが…このドゥーギンとも接触があった(P76)。

・英独立党、フランス国民戦線、オランダ自由党など…欧州で猛威を振るう極右政党は、ほぼ一様に親露派。→ それも単純に思想的な理由だけでなく、どうもロシアから資金提供を受けて活動しているよう。

 〔※日本でも1955年に、日本民主党と自由党が保守合同するとき、アメリカのCIAから資金提供(反共工作)を受けていたらしい…これが世界のリアル・ポリティクス?〕

・そしてアメリカのトランプも、どうやらロシアから様々な形で「選挙協力」を得ていた、という説が濃厚。

(※今、いよいよそれらが明るみに出されつつある? → そして、これがアメリカ政治の混乱・弱体化を狙ったものだとしたら、まんまと成功している?…詳細はP77)

・ロシアにしてみれば、排外的な思想と潤沢な工作資金を戦略的にエクスポート(輸出)し、欧米にまたがる〝枢軸〟をつくることで、自らの権益圏・影響圏を広げられる。

→ 各国にくすぶる〝白人の不満〟にレバレッジ(テコの原理)を利かせることで、かつてソ連を封じ込めた西側の先進国を乗っ取ろうとしている…。しかも、言論や選挙活動によって人々のマインドをハッキングするという「民主的な方法」で…。

 (※まさに〝情報の武器化〟…)

→ リベラルで多様な社会を目指した西側先進国の危機に乗じ、ロシアがかなり強気になっているのは間違いない(P78)。

(※日本に対しても同様か…プーチンにかかったら、安倍晋三なぞチョロいものか…?)


○フリンの辞任劇は「クレムリン・ゲート」?


・政権発足から1ヶ月も経たないうちに、トランプの〝側近中の側近〟の一人、マイケル・フリン大統領補佐官が辞任した。
…2016年12月末、ロシア政府が米大統領選挙にサイバー攻撃で介入していたとして、当時のオバマ政権が報復制裁措置を発動したのだが…なんとその同じ日に、フリンは駐米ロシア大使と接触し、「トランプ政権発足後の制裁解除」に関する交渉をしていた。…これは明らかに連邦法違反(P79)。

・そもそもフリンは、(ロシア政府に接近もしていた)いわくつきの人物(P79)。
→ そんな人物が、どういうわけか大統領選挙でトランプ陣営に潜り込み、同陣営の対ロシア政策に影響力を及ぼしていた。…つまり、彼の背後にはずっとクレムリンの影がちらついているのだ。

 (※う~ん、トランプの周囲にいるのは、〝いわくつきの人物〟ばかり?…詳細はP79)

・イラン・コントラ事件(P80)と「クレムリン・ゲート」とも揶揄されるフリンの辞任劇に共通するのは…汚れ仕事を実行する人間と大統領の間に〝バッファ(緩衝地帯)〟があること。…つまり、後になって事件が発覚しても、大統領本人は「知らぬ存ぜぬ」を貫き通せるだけの絶妙な距離があるのだ。
→ このままフリンがフォール・ガイ(生け贄)となって終わるのか、それともいつか本丸まで追及が及ぶのか…真相は永遠に闇の中、かもしれない。

 〔※う~ん、昨今の安倍政権と(スケールは小さいが)酷似した構造…? →〝お友だち〟にな
るわけか…〕


○カオスが支配する「トランプ後の世界」


・アメリカが、東西冷戦時代から長年かけてつくり上げてきた、自国を軸とするデリケートな世界秩序を…突然放り投げ、一斉に手を引いてしまったらどうなるのか…。
…就任以来、トランプ大統領は、そんな危ない〝実験〟を続けているが、どうやらその結論は…「一度壊れた世界は、もう元には戻らない」…ということになりそう…。
 (ex. 国際的な地球温暖化対策の枠組みである「パリ協定」からの離脱や…微妙な中東情勢に対する、アメリカ政府内での不一致・混乱など…詳細はP81~82。)
→ つまり、ひとりの大統領によって、アメリカの外交が〝シロウト化〟してしまったのだ。

・アメリカという国が、世界各地で莫大な政治的・経済的・人的投資を行い、時に汚い工作(※日本でもあったよう)や残虐行為に手を染めつつも、ある種の安定に寄与してきたのは紛れもない事実だ(※リアル・ポリティクスか…)。
…その歴史的経緯を踏まえると、トランプのあまりに粗暴なやり方は…世界各国のアメリカに対する信頼を、間違いなく破壊していく。

→ 今後アメリカは、「世界の基軸」「世界の警察」の地位からは滑り落ち、その権益や影響力は極めて限定的になっていくだろう。
→ そして中東地域などでは、ロシアや中国が入り込んでくるはず(※もう始まっている?)。
…カタール問題(P81~82)は、〝トランプ後の世界〟のカオスぶりを示唆しているよう…。

・こうした傾向は、北朝鮮問題でも同様…
…トランプ政権は当初、(核ミサイル開発を進める)北朝鮮に相当な迫力で脅しをかけたものの、その先の具体的なプランはなく、結局は何もできず…その後、中国になんとか責任をなすりつけようとしているが、一向に効果を上げる気配はない。

(※平昌五輪を機に、急転直下で米朝トップ会談が実現しそうな雲行きだが、〝具体的なプランがない〟なら、どうなることやら…)

・この問題を少し視点を変えて見ると、平和主義の日本人には信じたくない現実が明らかになってくる。
…それは、ロシアや中国はある意味で…「北朝鮮が核保有してもかまわない」…と考えていること。

→ むしろ北朝鮮問題は…「アメリカの影響力減退=世界の多極化」…を望むロシアや中国の戦略のために利用されている、と言ってもいい…。なぜなら、北朝鮮の核保有が現実となれば、もうアメリカはおいそれと東アジアの問題に手出しできなくなるから。

…中国は、常にのらりくらりと対北朝鮮制裁を骨抜きにし…ロシアも、貿易や軍事技術の供与を通じて、北朝鮮を裏側から〝下支え〟してきたが……その背景には、「アメリカ排除」という共通の利害があるわけ。

・こうしていずれアジアを捨て、自国の殻に閉じこもり始めたアメリカは…大西洋側だけを向いてイギリスとの同盟をとにかく堅持する一方…フランスやドイツとは一定の距離を保ち…NATO(北大西洋条約機構)はますます弱体化する。

→ そして気づいた頃には…ヨーロッパにロシアの軍事力が迫り…アジアからアフリカには「一帯一路」を掲げる中国マネーの権益が延びている――。
…このあたりが、ロシアや中国の描く〝理想のユーラシア大陸〟のエンドゲーム(着地点)だろう。

・こうなると、世界のモラルも大きく変わる。…〝中華帝国圏〟では、中国共産党の意向が規範となり…〝ロシア圏〟では、多様性を許さない反リベラリズムが規範となる。
→ 世界の各地域を「大きなローカルルール」が支配し…アメリカが第二次大戦後に啓蒙してきた自由や平等の精神は、隅に追いやられてしまうことになる。

・そんな状況下でも、なぜか日本の左派層は(※どの〝左派層〟?)いまだにアメリカの力を信じているよう。
→ しかし、「憲法9条を守れ」という平和主義は…アメリカの核戦力を含む圧倒的な軍事力を背景にした〝旧世界秩序〟の中でしか成立しない、サブカルだ(※今や実効性のない空疎な少数派…ということ?)。
→ 中国が日本の改憲を警戒するのは、(「平和のため」ではなく)そのままでいてくれたほうが都合がいいから…。

・ただし、〝ゲームのルールが変わりつつあること〟を理解できていないのは、多くの右派層も同じだ。→ 改憲に関する議論は、(「日本の誇り」や「尊厳」を取り戻すためではなく)あくまでもこうした現状に対応するためにやるべきかどうか…という点が本筋のはず。

 (※う~ん、〝リアル・ポリティクス〟の観点からの改憲論か…)

・〝アメリカの弱体化〟に備えて、自ら最終防衛線を引くために改憲するのが本当にベターかどうか――そういう軸となる議論が、日本にはまったくない。
→ 本来であれば、北朝鮮の核開発が表面化した1990年代に、憲法改正や日本の核保有(アメリカとの共同保有を含む)をタブーなしに議論すべきだったのだが…。

 〔※う~ん、これらの論は、(体調不良で中断してしまった)「震災レポート34」の中野剛志の論…(『世界を戦争に導くグローバリズム』集英社新書2014年)…に近い感じがするが…。
→ 今回「レポート34」を読み返してみたが、改めて参考になることが多かった。…特に「追記」で取り上げた、〝リベラル保守〟の中島岳志(著書に『「リベラル保守」宣言』新潮文庫、『親鸞と日本主義』新潮選書など)の可能性についても、翼を広げて注視していきたい…(「リベラル保守」…〝成熟社会〟と〝ソフト・ランディング〟がキーワードか)…〕

・いったんアメリカの退潮が始まってしまえば、トランプの次の大統領がどんなにまともであろうと、その流れを止めることはできない。
→ そしてアメリカが退いたアジアには、巨大な中国とならず者の核保有国家・北朝鮮が残る。

……政治も大手メディアも核心を突いた議論を避け続ける日本に(※国会や地方議会、そして大手マスコミの惨状…)、その現実を受け入れる準備はあるのだろうか…?

 〔※こうした〝リアル・ポリティクス〟に対して、「未来についての、広々とした、向日的
なヴィジョン」(内田樹)を対置・提示していくこと……それを当面目指していきたいのだ
が、難しく厳しい道のりになるだろう…〕

(1章…了 → 次章は「欧州とテロリズム」です…)         (2018.3.11)




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