2017年8月25日金曜日

(震災レポート41) 震災レポート・戦後日本編(1)―[対米従属論 ①]


(震災レポート41)  震災レポート・戦後日本編(1)―[対米従属論 ①]
               
中島暁夫


 歯の具合が悪くなったこと(老化現象?)をきっかけにして、歯の治療と、意外に奥が深い「歯の世界」…〔日本の戦後社会に、「原発の安全神話」だけでなく、「歯みがき神話」もあった!…『歯はみがいてはいけない』森昭(講談社+α新書)等より〕…にはまり込んでしまって、まただいぶ間が空いてしまった。
 今回からは(前回の予告どおり)「原発問題」から敷衍して、〝戦後日本の真実〟に少しでも迫っていきたい。
                                         


『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』 

矢部宏治 集英社インターナショナル 2014.10.29(2015.7.6 9刷!)――(1)


〔著者は1960年生まれ。慶応大学文学部卒。博報堂を経て、1987年より書籍情報社代表。…著書に『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド』『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』、共著書に『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』など。〕



【はじめに】


・3・11以降、日本人は「大きな謎」を解くための旅をしている。……なぜ、これほど巨大な事故が日本で起こってしまったのか。…なぜ、事故の責任者はだれも罪に問われず、被害者は正当な補償を受けられないのか。…なぜ、東大教授や大手マスコミは、これまで「原発は絶対安全だ」と言い続けてきたのか。…なぜ、事故の結果、ドイツやイタリアでは(※最近では台湾や韓国も)原発廃止が決まったのに、当事国である日本では再稼働が始まろうとしているのか。…そしてなぜ、福島の子どもたちを中心にあきらかな健康被害が起きているのに、政府や医療関係者たちはそれを無視し続けているのか。……本書はそうした様々な謎を解くカギを、敗戦直後まで遡る日本の戦後史の中に求めようとする試みだ。

・私は2010年から沖縄の米軍基地問題を調べ始め、その後、東京で東日本大震災に遭遇し、福島の原発災害問題にも直面することになった。→ 沖縄の米軍基地問題の取材は、まさに驚きの連続…つい最近まで誇りに思っていた日本という国の根幹が、すっかりおかしくなっていることを痛感させられる結果となった。

・その一方で、うれしい発見もあった。この数年の間に、数多くの尊敬すべき人たちと出会うことができたから。…立場は様々だが、皆それぞれのやり方で、この「大きな謎」を解くための旅を続けている人たちだ。そういう人たちは、日本全国に、いろいろな分野にいる。

・いま、私たち日本人が直面している問題は、あまりにも巨大で、その背後にひそむ闇も限りなく深い。うまく目的地にたどり着けるか、正直わからない。…ただ自分たちには、崩壊し始めた「戦後日本」という巨大な社会を少しでも争いや流血なく(※ソフト・ランディング)次の時代に移行させていく義務がある。…おそらくそれが、「大きな謎」を解くための旅をしている人たちの、共通した認識だと思う。私もまた、そういう思いでこの本を書いた。本書がみなさんにとって、そうした旅に出るきっかけとなってくれることを、心から願っている。


【1章】沖縄の謎―基地と憲法


○沖縄で見た、日本という国の現実


・(1945年4月に米軍が上陸した海岸のすぐ近くに)有名な普天間基地があるが、その周辺の美しい景色の中を、もう陸上・海上関係なく、米軍機がブンブン飛び回っているのが見える(P7,8に写真あり)。→ 米軍の飛行機は(沖縄だけでなく)日本の上空をどんな高さで飛んでもいいことになっている。(沖縄以外の土地ではそれほどあからさまに住宅地を低空飛行したりしないが)やろうと思えばどんな飛び方もできる。そういう法的権利を持っているからだ。

・でもそんな米軍機が、そこだけは絶対に飛ばない場所がある。米軍関係者の住宅エリアだ(P8に写真あり)。…こうしたアメリカ人が住んでいる住宅の上では絶対に低空飛行訓練をしない。…なぜか? もちろん、墜落したときに危ないからだ。→ この事実を知ったとき、私は自分が生まれ育った日本という国について、これまで何も知らなかったのだということが分かった。今からわずか4年前の話だ。


○米軍機はどこを飛んでいるのか


・米軍機は、沖縄という同じ島の中で、アメリカ人の家の上は危ないから飛ばないけれども、日本人の家の上は平気で低空飛行する(P10に米軍機の訓練ルートの図あり)。→ つまり彼らは、アメリカ人の生命や安全についてはちゃんと考えているが、日本人の生命や安全についてはいっさい気にかけていないということだ。…こいつらは日本人を人間扱いしていないんじゃないか…。→ しかし少し事情が分かってくると、それほど単純な話ではない。むしろ日本側に大きな問題があることが分かってくる。

・アメリカでは法律によって、米軍機がアメリカ人の住む家の上を低空飛行することは厳重に規制されている(詳細はP11~12)。→ それを海外においても自国民には同じ基準で適用しているだけだから、アメリカ側から見れば、沖縄で米軍住宅の上空を避けて飛ぶことはきわめて当然の話…。→ だから問題は、その「アメリカ人並みの基準」を日本国民に適用することを求めず、自国民への人権侵害をそのまま放置している日本政府にある、ということになる。…いったいなぜ、このような信じられない飛行訓練が放置されているのか。


○「日本の政治家や官僚には、インテグリティがない」


・強い国の言うことはなんでも聞く。相手が自国では絶対にできないようなことでも、原理原則なく受け入れる。←→ その一方、自分たちが本来保護すべき国民の人権は守らない。…そういう人間の態度を一番嫌うのが、実はアメリカ人という人たち。→ だから心の中ではそうした日本側の態度を非常に軽蔑している。…(著者の友人で、新聞社に勤めるアメリカ人は)こうした日本の政治家や官僚の態度について、「インテグリティ(integrity)がない」(「人格上の統合性、首尾一貫性」がない)と表現している。

・倫理的な原理原則がしっかりしていて、強いものから言われたからといって自分の立場を変えない。また自分の利益になるからといって、いい加減なウソをつかない。ポジショントークをしない。…そうした人間のことを「インテグリティがある人」と言って、人格的に最高の評価を与える(「高潔で清廉な人」といったイメージ)。←→ 一方、「インテグリティがない人」と言われると、それは人格の完全否定になるそう。→ だから、こうした状態をただ放置している日本の政治家や官僚たちは、実はアメリカ人の交渉担当者たちから、心の底から軽蔑されている…そういった証言がいくつもある。…

(※う~ん、こういう「インテグリティのなさ」というのは、なにも「対米問題」だけの事柄ではなく、昨今の様々な国内政治の在り様を見ていても、かなり根の深いものがある…ex. 直近では、「森・加計」問題における政府側の対応と、それに加担する一部マスコミの在り様…)


○2010年6月、鳩山・民主党政権の崩壊


・政治は結果責任だという考え方からすれば、鳩山民主党政権は、非常に低い評価しか与えられないだろう。…しかし2009年の8月、多くの日本人が、さすがに自分たちはもう変わらなければいけないと思った。

・戦後ずっと、日本はかなりうまくやってきた。アメリカの弟分としてふるまうことで、敗戦国から世界第二位の経済大国にまで上りつめた。→ しかしそのやり方が、さすがに限界にきてしまった。…多くの人がそう思ったのではないか。だから戦後初の本格的な政権交代が起こった。→ 日本が変わるべきときに、変わるべき方向を示してくれるんじゃないか。…当時はそういう大きな期待を集めた政権だった。


○本当の権力の所在はどこなのか


・民主党は、2009年9月に政権交代する前も後も、国策捜査によって検察から攻撃を受けていた(いわゆる「小沢事件」…詳細はP17)。→ 検察からリークを受けた大手メディアも、それに足並みをそろえた。…この時点で、日本の本当の権力の所在が、(オモテの政権とはまったく関係のない)「どこか別の場所」にあることが、かなり露骨な形で明らかになった。


○官僚たちが忠誠を誓っていた「首相以外のなにか」とは?


・そして最終的に鳩山政権を崩壊させたのは、米軍・普天間基地の、県外または国外への「移設」問題だった。…(外務省自身が「パンドラの箱」と呼ぶ)米軍基地の問題に手をつけ、あっけなく政権が崩壊してしまった。

・重要なのは、「戦後初めて本格的な政権交代を成し遂げた首相が、だれが見ても危険な外国軍基地をたった一つ、県外または国外へ動かそうとしたら、大騒ぎになって失脚してしまった」という事実。…そのとき外務官僚・防衛官僚たちが真正面から堂々と反旗をひるがえした。つまり官僚たちは、正当な選挙で選ばれた首相・鳩山ではない「別のなにか」に対して忠誠を誓っていた。〔鳩山の証言およびウィキリークス(機密情報の暴露サイト)のアメリカ政府の公文書より…詳細はP18~19〕…(※要するに、官僚たちの自発的「対米従属」)


○昔の自民党は「対米従属路線」以外は、かなりいいところがあった


・自民党は1955年の結党当初から、CIAによる巨額の資金援助を受けていた(2006年にアメリカ国務省も認めている)。…その一方で、CIAは、社会党内の右派に対しても資金を出して分裂させ、民社党を結成させて左派勢力の力を弱めるという工作もおこなっていた。

(※う~ん、こういう事実が明らかになっても、何らかの「説明責任」を果たしたということを聞いたことがないが…? → 結局これも、「戦争責任」をウヤムヤにしてしまったツケか…?)

・つまり「冷戦」と呼ばれる東西対立構造のなか、日本に巨大な米軍を配備しつづけ、「反共の防波堤」とする。←→ その代わりに様々な保護を与えて経済発展をさせ、「自由主義陣営のショーケース」とする。…そうしたアメリカの世界戦略のパートナーとして日本国内に誕生したのが自民党。→ だから米軍基地問題について「アメリカ政府と交渉して解決しろ」などと言っても、そもそも無理な話なのだ。

(※う~ん、説得力あり…)

・多くの日本人は、実はそうしたウラ側の事情にうすうす気づいていた。→ だから政権交代が起こったという側面もあった。…というのも、森・小泉政権以前の自民党には、かなりいいところがあった。→ 防衛・外交面では徹底した対米従属路線をとったものの、なにより経済的に非常に豊かで、しかも比較的平等な社会を実現した。その点は多くの日本人から評価されていたのだと思う。

〔※それが戦後日本で長期政権となった一番の理由か。→ だから安倍政権も、ピンチになると必ず(本能的に?)経済政策を持ち出す…〕

・しかし、その自民党路線がついに完全に行き詰ってしまった。→ それなら結党の経緯から言って、彼らには絶対にできない痛みの伴う改革、つまり極端な対米従属路線の修正だけは、他の党がやるしかないだろう。…さすがの保守的な日本人もそう考え、(最初はためらいながらも)戦後初の本格的な政権交代という大きな一歩を踏み出したのだと思う。

(※う~ん、戦後70年が経って〝世代交代〟がかなり進んでいるので、もはやそれほど多くの日本人が、自民党の結党当初の「ウラ側の事情」に「うすうす気づいていた」とは思えないが…。→ 従って、日本の今後の政局も、まだまだ紆余曲折が予想されるが…)


○日本国民に政策を決める権利はなかった


・ところが日本の権力構造というのは、(私たちが学校で習ったような)きれいな民主主義の形にはなっていなかった。…鳩山政権が崩壊するまで私たちは、日本人はあくまで民主主義の枠組みの中で、みずから自民党と自民党的な政策を選んできたのだと思っていた。←→ しかし、そうではなかった。そもそも最初から選ぶ権利などなかったのだ、ということが分かってしまった。
・日本の政治家がどんな公約をかかげ選挙に勝利しようと、「どこか別の場所」ですでに決まっている方針から外れるような政策は、いっさい行えない。→ 事実、その後成立した菅政権、野田政権、安倍政権を見てみると、選挙前の公約とは正反対の政策ばかり推し進めている。

・「ああ、やっぱりそうだったのか…」→ この事実を知ったとき、じんわりとした、しかし非常に強い怒りがわいてきた。…自分が今まで信じてきた社会のあり方と、現実の社会とが、まったく違ったものだったことが分かったからだ。

・その象徴が、米軍基地の問題。→ いくら日本人の人権が侵害されるような状況であっても、日本人自身は米軍基地の問題にいっさい関与できない。たとえ首相であっても、指一本触れることができない。…自民党時代には隠されていたその真実が、鳩山政権の誕生と崩壊によって初めて明らかになったわけだ。(※う~ん、鳩山政権の唯一の功績か…?)

・いったい沖縄の基地ってなんなんだ、辺野古ってなんなんだ、鳩山首相を失脚させたのは、本当は誰なんだ…。→ これは自分で見に行くしかない。写真をとって本にするしかないと思った。


○原動力は、「走れメロス的怒り」


・その本(『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること』)を出したあと、読者から「走れメロス的怒り」と言われた。…太宰治の『走れメロス』は、政治を知らない羊飼いが、王様のおかしな政治に怒って抗議しに行く話。→ 私が沖縄に撮影旅行に行ったのは、まさにこうした感じだった。…政治を知らぬ、羊飼い的怒りからだった。「それまで笛を吹き、羊と遊んで暮してきた」ような、美術や歴史など自分の好きなジャンルの本ばかり作ってきた、きわめて個人主義的な人間(ほとんど選挙も行ったことがないような完全なノンポリ)が、子どものような正義感で写真家と二人、沖縄に出かけて行った…。

〔※う~ん、この矢部宏治という人、ちょっと近藤誠医師と似たようなところがある…参照:『なぜ、ぼくはがん治療医になったのか』(帯文…デモシカから始まった一人の医師は、こうして医学界の常識と闘ってきた…)〕


○沖縄じゅうにあった「絶好の撮影ポイント」


・われわれ日本人には、国内の米軍基地について、もちろん知る権利がある。…近隣の住民にとって非常に大きな危険があり、しかも首相を退陣に追い込むような重大問題について、米軍からの発表資料だけで済ませていいはずがない。→ どこにどういう基地がどれくらいあって、日々、どういう訓練をしているか、自分たちで調べる権利がある。

・しかし一方、米軍基地だから、刑事特別法(安倍政権が2013年に成立させた特定秘密保護法の原型ともいうべき法律)によって、撮影が軍事機密の漏洩と判断された場合、10年以下の懲役となる可能性がある。→ でも沖縄というのは面白いところで、いろいろな場所に「さあ、ここから基地を撮れ」というような建物がある(詳細はP25)。


○「左翼大物弁護士」との会話


・本に掲載する写真がほぼ決まったとき、こうした問題に詳しい弁護士に(法的にまずい写真があるか)原稿をチェックしてもらった。→(彼の長年の経験によれば)…こういう「公安関係の問題」は、基本的に「つかまる、つかまらない」は法律とは関係がない(!)。公安がつかまえる必要があると思ったら、つかまえる。…公安がよくやるのは、近づいていって、なにも接触してないのに自分で勝手に腹を押さえてしゃがみ込んで、「公務執行妨害! 逮捕!」とやる。これを「転び公妨(公務執行妨害)」といい、一種の伝統芸のようなものらしい。→(そしてその弁護士さんは最後に)「まあ、基本的には、本を書いた人間をつかまえると、逆に本が売れて困ったことになるから、あなたたちがつかまることはないと思いますよ」…と、少しつまらなそうな顔で言ってくれた。


○沖縄の地上は18%、上空は100%、米軍に支配されている


・普天間基地の近くにアパートを借りて、約半年かけてその本をつくった。4年前まで何も知らなかった、まったくの初心者の眼から見た米軍基地問題、日本のおかしな現状のレポート…。

・沖縄の米軍基地の全体像(P29に図)…沖縄本島の18%が米軍基地になっているが、上空は100%が米軍の管理空域(嘉手納空域)になっている。…つまり二次元では18%の支配に見えるけれど、三次元では100%支配されている。→ 米軍機は(アメリカ人の住宅上空以外)どこでも自由に飛べるし、どれだけ低空を飛んでもいい。何をしてもいいのだ。…日本の法律も、アメリカの法律も、まったく適用されない状況にある。


○日本じゅう、どこでも一瞬で治外法権エリアになる


・さらに言えば、(これはほとんどの人が知らないことだが)実は地上も潜在的には100%支配されているのだ。→ 例えば米軍機の墜落事故が起きたとき、米軍はその事故現場の周囲を封鎖し、日本の警察や関係者の立ち入りを拒否する法的権利を持っている。…その理由は、1953年に日米両政府が正式に合意した次の取り決めが、現在でも効力を持っているから。
「日本国の当局は…所在地のいかんを問わず米軍の財産について、捜索、差し押さえ、または検証を行なう権利を行使しない」(「日米行政協定第17条を改正する議定書に関する合意された公式議事録 1953年9月29日)

・(一見、たいした内容には見えないかもしれないが)しかし実は、これはとんでもない取り決め……文中の「所在地のいかんを問わず(=場所がどこでも)」という部分が、あり得ないほどおかしい。→ つまり、米軍基地の中だけではなく、「米軍の財産がある場所」は、どこでも一瞬にして治外法権エリアになる、ということを意味しているから。→ そのため、墜落した米軍機の機体や、飛び散った破片などまでが「米軍の財産」と考えられ、米軍はそれらを保全するためにあらゆる行動をとることができる。←→ 一方、日本の警察や消防は、何もできないという結果になっている。

(※沖縄で最近起きた「オスプレイの墜落事故」でもそうだった…)


○沖縄国際大学・米軍ヘリ墜落事故


・その最も有名な例が、2004年に起きた沖縄国際大学・米軍ヘリ墜落事故。…事故直後、隣接する普天間基地から数十人の米兵たちが基地のフェンスを乗り越え、沖縄国際大学になだれ込んで、事故現場を封鎖した。

・(琉球朝日放送の映像より)…自分たちが事故を起こしておきながら、「アウト! アウト!」と市民を怒鳴りつけて大学前の道路から排除し、取材中の記者からも力づくでビデオカメラを取り上げようとする米兵たち。←→ 一方、そのかたわらで、米兵の許可を得て大学構内に入っていく日本の警察。…まさに植民地そのものといった風景がそこに展開されている。

・つまり、米軍機が事故を起こしたら、どんな場所でもすぐに米軍が封鎖し、日本側の立ち入りを拒否できる。→ 警察も消防も知事も市長も国会議員も、米軍の許可がないと中に入れない。…いきなり治外法権エリアになってしまう。

・ひと言で言うと、憲法がまったく機能しない状態になる。…緊急時には、その現実が露呈する。→ 米軍は日本国憲法を超えた、それより上位の存在だということが、この事故の映像を見るとよくわかる。…そしてこれは、本土で暮らす自分自身の姿でもある。


○東京も沖縄と、まったく同じ


・東京を中心とする首都圏上空にも、嘉手納空域と同じ、横田空域という米軍の管理空域があって、日本の飛行機はそこを飛べないようになっている(P35に図)。→ 羽田空港から西へ向かう飛行機は、千葉側へ迂回を強いられ、(急上昇・急旋回など)非常に危険な飛行を強いられている(※燃料費も余分にかかるという報道も…)。

・まったく沖縄と同じなのだ。法律というのは日本全国同じだから、米軍が沖縄でできることは本土でもできる。ただ沖縄のように露骨にやっていないだけだ。…(前述の)1953年の合意内容(「どんな場所にあろうと、米軍の財産について日本政府は差し押さえたり調べたりすることはできない」)というのも、(アメリカと沖縄ではなく)アメリカと日本全体で結ばれた取り決め。→ 東京や神奈川でも、米軍機が同様の事故を起こしたら状況は基本的に同じ(日本側は、機体に指一本触れることはできないし、現場を検証して事故の原因を調べることもできない)。→ 米軍が日本国憲法を超えた存在であるというのも、日本全国同じことなのだ。

・占領が終わり、1952年に日本が独立を回復したとき、そして1960年に安保条約が改定されたとき、どちらも在日米軍の権利はほとんど変わらずに維持されたという事実が、アメリカの公文書で分かっている。

(※ここでも日本側の文書ではなく、「アメリカの公文書」か…〝都合の悪い文書は廃棄する〟という日本の体質…)。→ つまり米軍の権利については、占領期のまま現在に至っている、ということだ。(※〝戦後日本の正体〟…2章で詳述)


○「占領軍」が「在日米軍」と看板をかけかえただけ


・(P8の写真とP29の地図より)…1945年に米軍は、現在の嘉手納基地の左手の海岸に上陸し、一帯を占領した。→ その海岸に近い、非常に平らで優良な土地を、それから70年間、米軍が占拠し続けている。…車で走っているとわからないが、少し高台に上ると、「ああ、米軍はあの海岸から1945年に上陸してきて、そのままそこに居すわったんだな」…ということが非常によくわかる。

・つまり「占領軍」が「在日米軍」と看板をかけかえただけで、1945年からずっと同じ形で同じ場所にいるわけだ。…本土は1952年の講和条約、沖縄は1972年の本土復帰によって主権回復したことになっているが、実際は軍事的な占領状態が継続したということだ。


○本土の米軍基地から、ソ連や中国を核攻撃できるようになっていた!


・米軍の嘉手納空軍基地の隣りには弾薬庫がある(P37に写真)。…こうした弾薬庫に、もっとも多い時期には沖縄全体で1300発の核兵器が貯蔵されていた(アメリカの公文書より)。→ 緊急時には、すぐにこうした弾薬庫から核爆弾が地下通路を通って飛行場に運ばれ、飛行機に積み込まれるようになっていた。→ そしてショックなのは、それが本土の米軍基地(三沢や横田、岩国など)に運ばれ、そこから新たに爆撃機が飛び立って、ソ連や中国を核攻撃できるようになっていた、ということだ。…三沢基地(青森県)などは、ソ連に近い場所にあるから、ほとんどその訓練しかやっていなかったという。

(※今は北朝鮮が目標か…?)

・中国やソ連の核がほとんどアメリカに届かない時代から、アメリカは中国やソ連のわき腹のような場所(つまり南北に長く延びる日本列島全体)から、1300発の核兵器をずっと突きつけていた。

・アメリカは1962年のキューバ危機で、ソ連が核ミサイルを数発キューバに配備したと言って大騒ぎした。→ あわや第三次世界大戦か、人類滅亡か、というところまで危機的状況が高まった。←→ しかしアメリカ自身は、その何百倍もひどいことをずっと日本でやっていたわけだ。

(※う~ん、右派系の論者は、これを〝核の抑止力〟と言うわけだが…)。

…こうした事実を知ると、いかに私たちがこれまで「アメリカ側に有利な歴史」しか教えられていなかったかが分かる。

(※ハリウッド映画も〝国策映画〟が多いらしい…)


○憲法九条二項と、沖縄の軍事基地化はセットだった


・(中国やソ連を核攻撃できるように)沖縄に1300発の核兵器があった? じゃあ、憲法九条ってなに? → そこで歴史を調べていくと、憲法九条二項の戦力放棄と、沖縄の軍事基地化は、最初から完全にセットとして生まれたものだ、ということが分かった。…つまり憲法九条を書いたマッカーサーは(※今でも「憲法九条は日本側が書いた」という論が新聞などにも載るが、本書の著者・矢部宏治はマッカーサー説をとる)、沖縄を軍事要塞化して、嘉手納基地に強力な空軍を置いて核兵器を配備しておけば、日本本土に軍事力はなくてもいい、と考えた(1948年3月3日、ジョージ・ケナン国務省政策企画室長との会談ほか)。
→ だから日本の平和憲法、とくに九条二項の「戦争放棄」は、世界中が軍備をやめて平和になりましょう…というような話ではまったくない。←→ 沖縄の軍事要塞化と完全にセット。…いわゆる護憲論者の言っている美しい話とは、かなり違ったものだということが分かった。

(※う~ん、史実に即したリアル・ポリティクス…かなり説得力ありか…?)

・戦後日本では、長らく「反戦・護憲平和主義者」というのが一番気持ちのいいポジションだった。私もずっとそうだった(※う~ん、当方はまだそうかも…)。…もちろんこの立場から誠実に活動し、日本の右傾化を食い止めてきた功績は忘れてはならない。←→(しかし深刻な反省とともによく考えてみると)自分も含め大多数の日本人にとって、この「反戦・護憲平和主義者」という立場は、基本的になんの義務も負わず、しかも心理的には他者より高みにいられる非常に都合のいいポジションなのだ。←→ しかし現実の歴史的事実に基づいていないから、やはり戦後の日本社会の中で、きちんとした政治勢力にはなり得なかった(※だから政権を担うことは一度もなかった…?)、ということになる。

〔※う~ん、なかなかシビアな見解だが、一定の説得力ありか…。→ 戦後も70年が過ぎて、ようやく改憲問題がクローズアップされてきた中で、この問題は大きな基礎的な論点の一つになるのではないか。…その場合には、単なるポジショントークではなく、(現時点での「現行憲法」維持の主体的な択び直しも含め)本質的で未来的な議論を期待したい。→ 憲法問題は今後も扱う予定…〕


○驚愕の「砂川裁判」最高裁判決


・沖縄の取材で、最後までわからなかった問題は……日本は法治国家のはずなのに、なぜ、国民の基本的人権をこれほど堂々と踏みにじることができるのか。なぜ、米兵が事故現場から日本の警察や市長を排除できるのか。なぜ同じ町の中で、アメリカ人の家の上は危ないから飛ばないけれど、日本人の家の上はどれだけ低空飛行してもいいなどという、めちゃくちゃなことが許されているのか。

(※う~ん、きわめて基本的な疑問だ…)

・調べていくと、米軍駐留に関する一つの最高裁判決(1959年)によって、在日米軍については日本の憲法が機能しない状態(治外法権状態)が「法的に認められている」ことが分かった。…これは本当にとんでもない話で、普通の国だったら、問題が解明されるまで内閣がいくつ潰れてもおかしくないような話だ。〔参考:『検証・法治国家崩壊―砂川裁判と日米密約交渉』(<戦後再発見>双書 第3巻) 創元社〕

・(占領中の1950年から第2代の最高裁長官をつとめた)田中耕太郎が、独立から7年後の1959年、駐日アメリカ大使から指示と誘導を受けながら、在日米軍の権利を全面的に肯定する判決を書いた。→ その判決の影響で、在日米軍の治外法権状態が確定してしまった。→ またそれだけでなく、われわれ日本人はその後、政府から重大な人権侵害を受けたときに、それに抵抗する手段がなくなってしまった(※「三権分立」の崩壊)。……1959年12月16日、そうした「戦後最大」と言っていいような大事件が、最高裁の法廷で起きたのだ。


○憲法と条約と法律の関係―低空飛行の正体は航空法の「適用除外」


・日本の法体系は、憲法 → 条約 → 一般の法律 となっている(P41に図)。…つまり日米安保条約などの条約は、日本の航空法などの一般の国内法よりも強い(上位にある)。…これは憲法98条2項に基づく解釈で、「日本国が締結した条約は、これを誠実に遵守する」ということが憲法で定められているから。→ その結果、条約が結ばれると、必要に応じて日本の法律を修正することになる(新しい上位の条約に合わせて、下位の国内法を変える)。

・米軍機がなぜ、日本の住宅地上空でめちゃくちゃな低空飛行ができるのか、という問題も、法的構造は同じで、「日米安全保障条約」と、それに基づく「日米地位協定」(在日米軍が持つ特権について定めた協定)を結んだ結果、日本の国内法として「航空特例法」がつくられているから。

(※いよいよ注目の「日米地位協定」が出てきた…)

・「前項の航空機〔米軍機と国連軍機〕およびその航空機に乗りくんでその運航に従事する者については、航空法第6章の規定は、政令で定めるものをのぞき、適用しない」(「日米地位協定と国連軍地位協定の実施にともなう航空法の特例に関する法律 第3項」1952年7月15日施行)……初めてこの条文の意味を知ったときは、本当に驚いた。→ この特例法によって「適用しない」とされた「航空法第6章」とは、「航空機の運航」に関する「最低高度」や「制限速度」「飛行禁止区域」などの43もの条文だが、まるまる全部「適用除外」となっている!……つまり、米軍機はもともと、高度も安全も、なにも守らずに日本全国の空を飛んでよいことが、法的に決まっているということなのだ。

(※う~ん、〝特例法の罠〟…!)


○アメリカ国務省のシナリオのもとに出された最高裁判決


・条約は一般の法律よりも強いが、憲法よりも弱い。つまり、いくら条約(日米安保条約や日米地位協定)は守らなければならないと言っても、国民の人権が侵害されていいはずはない。→ そうした場合は憲法(最上位の法律)が歯止めをかけることになっている。……近代憲法というのは基本的に、権力者の横暴から市民の人権を守るために生まれたもの。→ だから、日米安保条約が日本の航空法よりも強い(上位にある)といっても、もし住民の暮らしや健康に重大な障害があれば、きちんと憲法が機能して、そうした飛行をやめさせる。…それが本来の法治国家の姿だ。

・ところが1959年に在日米軍の存在が憲法違反かどうかをめぐって争われた砂川裁判で、田中耕太郎という最高裁長官が、とんでもない最高裁判決を出してしまった。…簡単に言うと、日米安保条約のような高度な政治的問題については、最高裁は憲法判断をしないでよい、という判決を出した。→ そうすると、安保に関する問題については、日本の法体系から最上位の憲法の部分が消えてしまう(P43に図)。…つまり、安保条約とそれに関する取り決め(日米地位協定など)が、憲法を含む日本の国内法全体に優越する構造が、このとき法的に確定してしまった。

(※確かに、とんでもない判決…)

・だから在日米軍というのは、日本国内で何をやってもいい(治外法権状態)。…住宅地での低空飛行や事故現場の一方的な封鎖など、様々な米軍の「違法行為」は、実はちっとも違法じゃなかった。日本の法体系のもとでは完全に合法だということが分かった。→ その後の米軍基地をめぐる騒音訴訟なども、すべてこの判決を応用する形で「米軍機の飛行差し止めはできない」という判決が出ている。

・そしてさらにひどい話があった。…それはこの砂川裁判の全プロセスが、検察や日本政府の方針、最高裁の判決まで含めて、最初から最後まで、基地をどうしても日本に置き続けたいアメリカ政府のシナリオのもとに、その指示と誘導によって進行したということだ。…この驚愕の事実は、いまから6年前(2008年)、アメリカの公文書によって初めて明らかになった。

(※う~ん、ホントにごく最近で、しかもまた「アメリカの公文書」によって…!)

・判決を出した日本の最高裁長官も、市民側とやりあった日本の最高検察庁も、アメリカ国務省からの指示および誘導を受けていたことが分かっている。…本当に驚愕の事実だ。(詳細は『検証・法治国家崩壊』)


○「統治行為論」という、まやかし


・この判決の根拠を、日本の保守派は「統治行為論」と呼んで、法学上の「公理」のように扱っている。…政治的にきわめて重要な、国家の統治に関わるような問題については、司法は判断を留保する(※要する三権分立における司法の責任放棄…)。それはアメリカやフランスなど、世界の先進国で認められている司法のあり方で、そうした重要な問題は、最終的には国民が選挙によって選択するしかないのだと…。…(一見、説得されてしまいそうになるが)しかし少しでも批判的な眼で見れば、この理論が明らかにおかしいことが分かる。

・例えば米軍機の騒音訴訟の場合…高性能の戦闘機というのは、もう信じられないような爆音(音というより振動)がするから、当然健康被害が出る。→ そこでたまりかねた基地周辺の住民たちが、基本的人権の侵害だとして、飛行の差し止めを求める訴訟を起こしている。←→ でも、止められない。…判決で最高裁は、住民側の被害については認定まではする。→ でもそこから先、飛行の差し止めはしない。…そういう不思議な判決を出す。

・最高裁はその理由を…「米軍は日本政府が直接指揮することのできない『第三者』だから、日本政府に対してその飛行の差し止めを求めることはできない」という、まったく理解不能なロジックによって説明している。…この判決のロジックは、一般に「第三者行為論」と呼ばれているが、その根拠となっているのが、日米安保条約のような高度な政治的問題については最高裁は憲法判断しなくてもよいという「統治行為論」であることは明らか。

・しかし、国民の健康被害という重大な人権侵害に対して、最高裁が「統治行為論」的立場から判断を回避したら、それは三権分立の否定になる。…それくらいは、中学生でもわかる話ではないのか。

・(元裁判官で明治大教授の瀬木比呂志の言)…「そもそも、アメリカと日米安保条約を締結したのは国である。つまり、国が米軍の飛行を許容したのである。…アメリカのやることだから国は一切あずかり知らないというのであれば、何のために憲法があるのか?」(『絶望の裁判所』講談社)


○アメリカやフランスでも、日本のような「統治行為論」は認められていない


・実はアメリカやフランスにも、日本で使われているような意味での「統治行為論」は存在しない。→ (フランスの例)…「〔フランスの学界では〕統治行為論は、その反法治主義的な性格のゆえに、むしろ多数の学説により支持されていない」「〔フランスの〕判例の中には統治行為の概念規定はおろか、その理論的根拠も示されていない上に、一般に統治行為の根拠条文とされているものが一度も引用されていない」…と、この問題の第一人者である慶応大名誉教授の小林節氏は書いている(『政治問題の法理』日本評論社)。
…そして統治行為論の安易な容認は、「司法による人権保障の可能性を閉ざす障害とも、また行政権力の絶対化をまねく要因ともなりかね」ず、「司法審査権の全面否定にもつながりかねない」と指摘している。←→ 逆に言えば、砂川裁判以降、約半世紀にわたって日本の最高裁は、小林節教授が懸念した通りのことをやり続けているのだ。

・(アメリカの例)…「統治行為論」という言葉は存在せず、「政治問題」という概念がある。→ フランスと違うのは、アメリカでは判例の中でこの「政治問題」という概念が、かなり幅広く認められているということ。…だがその内容は、外国軍についての条約や協定を恒常的に自国の憲法より上位に置くという日本の「統治行為論」とは、まったく違ったものだ(詳細はP48)。

・歴史が証明しているのは、日本の最高裁は政府の関与する人権侵害や国策上の問題に対し、絶対に違憲判決を出さないということ(※司法の行政府への従属)。…「統治行為論」は、そうした極端に政府に従属的な最高裁のあり方に、免罪符を与える役割を果たしている。

・日本の憲法学者はいろいろと詭弁を弄してそのことを擁護しようとしているが(※御用学者?)、日本国憲法第81条にはこう書かれている…「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」…これ以上、明快な条文もないだろう。→ この条文を読めば、もっとも重要な問題について、絶対に憲法判断をしない現在の最高裁そのものが、日本国憲法に完全に違反した存在であることが、だれの眼にも明らかだと思う。


○アメリカとの条約が日本国憲法よりも上位に位置することが確定した


・深刻なのは、田中耕太郎が書いたこの最高裁判決の影響が及ぶのが、軍事の問題だけではないということ。→ 最大のポイントは、この判決によって、
 「アメリカ政府(上位)」 > 「日本政府(下位)」
という、占領期に生まれ、その後もおそらく違法な形で温存されていた権力構造が、
 「アメリカとの条約群(上位)」 > 「憲法を含む日本の国内法(下位)」
という形で法的に確定してしまったことにある。

(※う~ん、戦後レジーム=「属国民主主義」ということか…)

・安保条約の条文は全部で10ヵ条しかないが、その下に在日米軍の法的な特権について定めた日米地位協定がある。→ さらにその日米地位協定に基づき、在日米軍を具体的にどう運用するかをめぐって、日本の官僚と米軍は60年以上にわたって毎月、会議をしている。…それが「日米合同委員会」という名の組織。

(※これがクセモノなのだ…)

・(P51に日米合同委員会の組織図)…外務省北米局長を代表とする、日本の様々な省庁から選ばれたエリート官僚たちと、在日米軍のトップたちが毎月2回会議をして → そこでいろいろな合意が生まれ、議事録に書き込まれていく。…合意したが議事録には書かない、いわゆる「密約」もある。…全体でひとつの国の法体系のような膨大な取り決めがある。→ しかもそれらは、原則として公表されないことになっている。

〔※う~ん、これもまた戦後史の〝背後にひそむ闇〟の一つか。…そして、こうした「密約」の闇の構造が、日本の官僚たちの〝隠蔽体質〟の根源にあるものなのではないか…。→ かくして、その〝闇の中〟で、今月もまた「日本の行く末」が密かに決められていく…?〕


○官僚たちが忠誠を誓っていたのは、「安保法体系」だった


・そうした日米安保をめぐる膨大な取り決めの総体は、憲法学者の長谷川正安によって、「安保法体系」と名づけられている。→ その「安保法体系」が、砂川裁判の最高裁判決によって、日本の国内法よりも上位に位置することが確定してしまった。→ つまり裁判になったら、絶対にそちらが勝つ。→ すると官僚は当然、勝つほうにつく。

・官僚というのは法律が存在基盤だから、下位の法体系(日本の国内法)より、上位の法体系(安保法体系)を優先して動くのは当然だ。…裁判で負ける側には絶対に立たない、というのが官僚だから、それは責められない。

・しかもこの日米合同委員会のメンバーはその後どうなっているか。→ このインナー・サークルに所属した官僚は、みなその後、めざましく出世している(とくに顕著なのが法務省)…。

・このように過去60年以上にわたって、安保法体系を協議するインナー・サークルに属した人間が、必ず日本の権力機構のトップにすわるという構造ができあがっている。→ ひとりの超エリート官僚がいたとして、彼の上司も、そのまた上司も、さらにその上司も、すべてこのサークルのメンバー。…逆らうことなど、できるはずがない。→(だから鳩山元首相の証言にあるように)日本国憲法によって選ばれた首相に対し、エリート官僚たちが徒党を組んで、真正面から反旗をひるがえすというようなことが起こる。

・私が沖縄に行ったきっかけは、「鳩山首相を失脚させたのは、本当は誰なのか」「官僚たちが忠誠を誓っていた『首相以外のなにか』とは、いったい何だったのか」…という疑問だった。→ この構造を知って、その疑問に答えが出た。……彼らは日本国憲法よりも上位にある、この「安保法体系」に忠誠を誓っていた…ということだった。

〔※う~む、これが、戦後史の背後にひそむ「大きな謎」=「戦後日本の正体」の一つか…。→そして、この〝戦後日本の負の構造〟を、突き崩していくための第一歩は、本書が意図したように、その〝隠された構造〟を広く国民一般の前に、明らかにしてしまうことではないか…〕

                               (8/15…1章 了)            


〔関連資料の紹介〕



  『自発的対米従属』―知られざる「ワシントン拡声器」
  ― 猿田佐世〕(角川新書)2017.3.10


【はじめに】より


○世論を反映しない既存の日米外交


・これまで「アメリカの声」として日本に届いてきた典型的な声は、極めてシンプルである。…周知のとおり、沖縄の辺野古への基地建設の問題であれば「早く基地建設を」、安保法制であれば「早く制定を」「早く派兵を」、憲法九条であれば「早く改正を」、原発であれば「原発ゼロ反対」「早く再稼働を」…というものであった。←→ しかし、日本の世論調査は、この「アメリカの声」と異なる結果を出してきた(普天間基地の辺野古移設…「計画通り移設すべき」36%、「計画を見直すべき」47% 安保法制…「評価する」31%、「評価しない」54% 原発の再稼働…「進めるべき」30%、「進めるべきでない」58%…(以上、日経新聞) 憲法九条の改正…「解釈や運用で対応するのは限界なので、第九条を改正する」35%、「これまで通り、解釈や運用で対応する」38%、「第九条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない」23%…(読売新聞)。

・典型的な「アメリカの声」の発信源となってきたアメリカの知日派は、アメリカの中の少人数の集まりにすぎない。しかも、その限られた人たちに情報と資金、そして発言の機会を広く与え、その声を日本で拡散しているのは日本政府であり日本のメディアである。…日本の既得権益層が、いわば一面「日本製の〝アメリカの外圧〟」ともいえるものを使って、日本国内で進めたい政策を日本で進める――。これが長年続いた手法となっているのである。
→ このように、日本も関与したアメリカからの外圧作りを私は「ワシントン拡声器効果」を利用するものと表現してきた。(※つまり「自発的対米従属」…)

・もちろん、日米外交を持ち出すまでもなく、右に挙げたような世論調査とは逆の方向を推し進める国会議員を当選させ、彼らが国会の中で多数派を占めていることが、これらの世論と政治の乖離の直接の原因ではあるが、我々が気がつかぬまま、日本の既得権益層は、日米外交をその一つの手段として、自らの成し遂げたい政策を実現するために用いてきた。←→ 日米外交における東京のカウンターパートであるワシントンには、極めて一面的な情報しか日本から伝えられてこなかったのである。〔※日米間の情報流通は、極めて変則的な、ほとんど一方通行だった(しかも〝自作自演〟の?)、ということか…〕


○日米外交の課題と、どう向き合うか


・本書では、私がワシントンでのロビイングを通じて見聞した経験を織り交ぜつつ、まずは、従来の日米外交の問題点を提示したい。これまで日本の政治に大きな影響を及ぼしてきた少人数の知日派と、日本の政治家やマスコミなどが、互いに利用し合い政策を日本において実現していくという、ある種の共犯関係に基づいた「自発的対米従属」とも「みせかけの対米従属」とも言える状態が、戦後70年間続いてきた。その仕組みをご紹介する。…続けて、トランプ大統領の下で日米外交がどうなるか、これまでの外交に既得権益を有していた人たちがどのように既存の日米外交を維持しようとしているかなど、日米外交をめぐって現在進んでいる事象について説明し、分析を行う。→ そして、戦後初めて、日本が「対米従属」を唯一の判断基準とすることができなくなっている現在、この状況に日本がどのように立ち向かい取り組むべきなのかについて述べる。

…(※以上は忘れないための予告編で、このテキストについては、今後改めてレポートしていく予定です…)
                                         

〔次回の(2)は…【2章】福島の謎―日本はなぜ、原発を止められないのか…の予定です。→ 9月中の完成を目指します。〕

                                   (2017.8.15)