2018年3月22日木曜日

震災レポート・戦後日本編(番外編 ①)―[憂国論 ①]

 鈴木邦男×白井聡の対談本、『憂国論』の感想を根石さんに携帯メールで送ったのが縁で、内容的に「震災レポート・戦後日本編」の番外編とでもいったものが出来上がった。
→ そこで(その間にまた間が空いてしまったつなぎとして)、13回にわたった携帯メールを2回分に編集し直して、「震災レポート」の番外編としてお届けします。
                                         

『憂国論』―戦後日本の欺瞞を撃つ― 鈴木邦男×白井聡〔対談集〕――(1)
                                                         (祥伝社新書)2017.7.10


〔鈴木邦男…1943年、福島県生まれ。政治活動家。早稲田大政経学部卒。…学生時代は「生長の家」学生会全国総連合の書記長として活躍、その後、全国学生自治体連絡協議会委員長を務めた。「一水会」を創設し、新右翼の理論家として名を馳せる(現在は政治団体から身を退いている)。…著書に『<愛国心>に気をつけろ』(岩波書店)、『憲法が危ない!』(祥伝社新書)など多数。

白井聡…1977年、東京都生まれ。政治学者、思想家、京都精華大学専任講師。早稲田大政経学部卒、一橋大大学院博士課程(博士)。…著書に『未完のレーニン』『永続敗戦論』(石橋湛山賞、角川財団学芸賞)、『戦後政治を終わらせる』など多数。〕



【はじめに】

(白井聡)……今日最も有力と見られている右翼集団・日本会議は、菅野完氏の『日本会議の研究』によれば、ある意味で、鈴木邦男に対するルサンチマンから始まっている。
「なんで日本会議の人々はあんなに暗いんだろう」という私の素朴な疑問は、菅野氏の著作を読んだとき、氷解した。→ それは、鈴木さんの朗らかさの陰画なのであり、彼らの運動目標の根本的な矮小性もそこから発していると思う。

(※この「運動目標の根本的な矮小性」という点で、そしてその「陰画=陰湿さ」という体質で、日本会議と安倍政権は繋がっているのではないか…)


【1章】三島由紀夫と野村秋介


(※この章で改めて認識させられるのは、戦後日本の右翼運動における、三島由紀夫の影響力の大きさだろう。…いくつかのさわりを挙げてみると…)

(白井)…かつて三島由紀夫が「憲法改正だ」と言っても、誰も動かなかったが、今は状況が変わった。もっともそれは、三島が望んだものとはまったく異なる形においてだろうが。

(鈴木)…首相が先頭に立ってやろうとしているのだから、まったく違う。やっと三島の叫びが届くようになったという感じ…。
→ 日本会議の人たちも、必ずしも目的が一致してなくとも、安倍さんしかいないと思っているのだろう。

(新旧の「人質事件」について…)
(鈴木)…ぼくらもそうだが、安倍さんも福田首相の「いのちは地球より重い」という言葉に呪縛されながら、「オレは違う。国家の意思を通すのだ」と突っ張ったわけだが、実際にはアメリカに忠誠を尽くすことになってしまっている(※対米従属)。
→ 国家の一番大きな仕事は、やはり国民の生命を守ることですよ。…「たとえどんな形でも国民を守る」「身代金を払って、とにかく解放してもらう」…という判断は正しかったと思う。国家の筋を通しても国民を見殺しにしてしまったら、何にもならないじゃないか。
…安倍さんは国家の意思を通したけれども、そのために人質になった日本人は殺されてしまった。これでは、国民を守ることになっていないじゃないか。

ひどいなあと思ったのは、国民の間でも…「人質になって殺されたのは自己責任だ」「安倍首相よくやった」…と絶賛する人がいたこと。→ そういう冷淡な人たちを生んで来た日本、アメリカナイズされた日本に対しては疑問を持たざるを得ない。

保守派の人たちは口を開けば「日本を守る」というけれども、いったい日本の何を守ろうというのか。日本は数多くの外国からいろいろな文化を取り入れて来たわけだが、それにもかかわらず、「外国人は出ていけ」と言っている。そういう排外主義は、ちっとも日本らしさじゃない…。
排外主義的な集会やデモでは日の丸の旗が立てられているが、日の丸というのは大和、つまりみんなが仲良くするという意味じゃないか。それなのに、外国人を排除しようとしていることにものすごく違和感を持ちますね。

(※ここらあたりは、鈴木邦男の「陽=朗らかさ」の部分がよく表れているところか…)

(鈴木)…三島由紀夫は谷口雅春先生(「生長の家」創始者)のことを尊敬していたし、今の国会議員にも谷口先生を尊敬している人はたくさんいます。…生長の家は献身的にサポートし、見返りに金を要求したりしないので、政治家たちもいい印象を持っていたのではないか。

(白井)…三島の檄文、「このままでは自衛隊というのは結局、米軍の二軍になるんだぞ」という趣旨のことを言っている。
→ まさに、そのことが新安保法制以後、はっきりしてきた。…自衛隊員が入隊したときの誓約・条件に違反するようなことを、国家の側が一方的にやっている…。
→ だから、自衛隊に入る若者がいなくなる、という問題が深刻になってきている。…第二次安倍内閣以降、応募者が減り続けている。→ 日本もアメリカのように「経済的徴兵制」を本格化させるかもしれない。


【2章】戦後の「新右翼」とは何だったのか


(鈴木)…そもそも「右翼」は最初、警察の分類用語だった。
…日本では1960年(60年安保)頃から、左翼とくに共産主義が恐いというので、自民党や警察が、ヤクザや総会屋まで取り込んで反対勢力を作ろうとした。
とくに、アメリカのアイゼンハワー大統領が来日するとき、左翼に対抗するだけの人数を集めようとした。

(白井)…右翼の黒幕と言われた児玉誉士夫が、岸信介(※安倍のオジイちゃん!)の命令を受けて、やったのですね(※陰湿! → オジイちゃんの気質を受け継いだ…?)。

(鈴木)…それまで警察に弾圧されていたヤクザやテキヤが、どんどん政治結社を作った。
そうすると、「先生」とか言われて、警察からも優遇されるわけ。
→ それで、「オレたちは右翼だ」と、誇りを持って右翼を名乗る人たちが出てきた。…右翼という言葉が使われるようになったのは、それから。


○公安警察と右翼の癒着


(白井)…優遇とはどういうことか。

(鈴木)…ヤクザや総会屋はそれまで、警察から徹底的に弾圧されていた。
→ ところが、右翼団体に衣替えすると、警察の管轄が防犯担当から「公安担当」に替わる。…公安は偉いのです。警察内で地位が高い。

例えば、右翼の街宣車は、「われわれは愛国団体である。一般車両は止まりなさい」などと言って、赤信号でも止まらずに走っている。
→ 交番のお巡りさんが出てきて制止しようとすると、後ろから公安担当の刑事が来て、「なぜ止めるんだ、オレたちが守っているんだ」と、お巡りさんを叱りつける。
→ そうすると、右翼の人たちは…「オレたちは国のためにやっているのだから、その辺の木っ端役人にとやかく言われる筋合いはない」と優越感を持つ。…そういうトラブルはずいぶん起きていた。
…右翼がスピード違反で捕まっても、罰金なしにしてもらえる。駐車違反をしても、警察は捕まえない。→ 右翼は公安に借りがあるから、内部の情報を提供する。
…右翼の集会や会合には、公安がいる。わざわざスパイを入れる必要もない。公安と右翼は一体だから、情報は筒抜け。
あるいは、右翼団体が日教組の大会に押しかけて行く。…計画が分かった段階で止めればいいのだが、止めない。→ 日教組の代表を前に右翼が抗議文を読むセレモニーをさせるのだ(日教組の元委員長の体験談もあり)。…そういう敵対関係を公安がわざと作っている。

(※そうしてニュースになれば、ビビって抜けていく組合員も出てくる。若い教員は組合に入らなくなる…という狙いか。)


○公安警察はいらない


(鈴木)…赤報隊事件では、ぼくはずっと容疑者だと思われていて、ぼくの住んでいるアパートを公安の刑事が見張っていた。
→ 事件の時効直前のある日、赤報隊を名乗る人から脅しの手紙が来て、同じ日にそのアパートが焼き討ちされた。もう終わりかと思った。チャーシューになるところだった(笑)。…(※朗らかな人だ…)
公安の刑事が外で見張っていたのだから、誰かが来て火を付けて逃げたのを見ていたと思うが、見逃して、捕まえない。(詳細はP93)

公安が関与している事件は、新左翼ではもっと多いのではないか。公安は、新左翼が襲われているのを見て見ぬ振りをするどころか、襲う側に隠れ家を教えてやったりしているだろう。

右翼とヤクザが一体となっている部分があり、覚醒剤や麻薬で逮捕状が出ているような者を誘うのが手口。…「愛国者が覚醒剤で捕まったら格好が悪いだろう。それより、共産党にちょっと突っ込まないか。そうしたら、覚醒剤はチャラにする」…などと言って、やらせる。→ ぼくも誘われたことがある。…共産党や日教組に突入した事件には、そういう形で誘われてやったケースがかなり含まれている。
⇒ だから、刑事警察や交通警察は必要だが、「公安警察」は要りませんよ。

公安に唆されて起きている事件はかなりある。…背景には、共産革命への恐怖や、警察も右翼もヤクザも仲間だという意識があると思う。

(白井)…公安警察は、悪名高い戦前の特高警察の後身ですから。(※そうだったのか…)

(鈴木)…そうです。ぼくは新右翼の運動をほとんど止めているが、それでも公安が定期的にやって来る。皇室のカレンダーを持って…。「皇室を利用するな」と言いたい。

(白井)…やることが細かいですね。日本の公安は優秀なのですか。

(鈴木)…トップのほうは優秀だろう。警察というよりも、自民党あるいは体制側に頭のいい人がいるのです。広告代理店(※電通?)もずいぶん協力している。


○沖縄での土人発言


(白井)…警察と右翼の一体性…最近の話題で言えば、沖縄に派遣された機動隊による土人発言。…警察官という集団の主要な価値観から考えると、沖縄の人たちに対する差別感情、あるいは沖縄の反基地運動に肩入れする本土の左派に対する感情は、ああいったものだろう。

→「お上に楯突くことをやっている連中は頭がおかしいんだ」という彼らの標準的な物の見方からすると、「やつらは人間ではなくて土人だ」という価値観は、言ってみれば当然だろう。
教え子の大学生が「兄貴がネトウヨになっちゃった」と嘆いていたが、実はその兄貴は警察官。…困ったことだが、警察官であることとネトウヨであることは、きわめて親和性が高いと思う。
⇒ 要するに、警察は全然、民主化されていない。日本の警察は民主主義社会の警察ではない。

(鈴木)…警察官たちは「土人」という言葉を知らないと思う。そういう言葉を使っているのは、おそらく警察の上のほうの人たち。→ 彼らは、沖縄に出した部下たちが現状を見て、住民たちや支援者の左翼にシンパシーを持つのが恐いのです。だから、部下たちに徹底した思想教育をしている。

…「あいつらは中国から金をもらっている。日当をもらって働いているだけだ」「沖縄の利益しか考えていない。日本国がどうなってもいいと思っているんだ」「そういう輩は土人と同じだ」…ということだろう。→ だから、つい口から出てしまう。

そういう実態は1960年代からずっと変わらない。…映画監督の高橋伴明は、「(学生時代に)学生運動に興味をもってデモに行ったら、先頭に出され、いきなり機動隊から殴られた。それで、カッとなって権力は許せないと思い、セクトに入った」と話してくれた。

…警察官も同じだ。自分たちがいいことをやっているとはあまり思っていない。→ しかし、警備の先頭に出ると、学生たちから「権力の犬」「税金泥棒」と罵声を浴びせられる。それで、カッとなって「あいつらは許せない」とむきになるということ。

→ 警察側と左翼側のトップ同士が、お互いに新入りを先頭に出して、相手に対する憎悪を掻き立て、戦う信念を固めさせる。

(白井)…イヤな構造ですね。

(鈴木)…土人発言のニュースを聞いて、今でも同じことをやっていると感じた。


○特高警察から公安警察へ


(白井)…戦後処理の問題に関わることだが、戦中の日本で一番ヤバい部分は公安警察に引き継がれて来た。

→ GHQが占領を始めても、特高警察は当初変わらずに機能していた。…(当時の内務省は、自己反省などゼロで)、GHQによる粛清が特高警察にも及ぼうとしたとき、彼らは、公職追放を受ける前に大規模な人事異動をして、特高の警官たちを守り、 → その人たちが、戦後の公安警察の礎になっていった。

(この後、似たような構造として、元法務大臣・奥野誠亮の例が挙げられている)
…奥野は終戦時に、日本軍の様々な犯罪に関わる書類を焼き払い、証拠隠滅した当事者。
→ 戦後は、内務省の解体に伴い、自治省の官僚になって事務次官にまで上り詰め、その後衆議院議員に転身し、大臣を三回歴任。
→ 亡くなる前年に、日本記者クラブでの発言では…「満州国は五族協和の国だった」とか…要するに「オレたちは悪くない」「どんな証拠を突き付けられようが、悪くないのだ」…と、きわめて幼稚なことを言っている。
…学歴もキャリアもトップエリートで、いろいろな経験を重ねて来たにもかかわらず、こんな幼稚なことしか言えないことに、驚きを禁じ得ない。

→ この奥野元大臣の息子が、地元・奈良県の地盤を引き継いで政治家をやっている。
(※一事が万事か…)

…そういう形で「内務省的なるもの」が、形を変えて「戦後レジーム」に引き継がれている。

地方政治も同じで、日本の地方自治は三割自治だと言われるが、それは財源が三割しかない、ということだけではなく、いまだに日本全国の都道府県知事の大半が官僚上がり…(実質的には戦前の「官選知事」と大差ない)。

(鈴木)…公安警察でもそうだが、外から入って来た人でも組織にすぐ馴染む。…それはエリート意識だけでなく、自分たちこそが愛国者だという意識が強いからだろう。
…殺人犯や交通違反は捕まらなくても、日本が滅びるわけでもない。しかし、過激派を野放しにしたら国が滅びるかもしれない。左翼から国を守っているのは我々だというプライドがある(※特高警察のマインドか…)。

また、上から「日本を守っているのは君たちなんだ」などとおだてられ、より一層いい気になる。だから、何でもやれるのだろう。一種のサイコパスだよ。

…そのことによって不幸になっている国民がいても全然気にしない。日本を守るのだから仕方がないだろうと。
(※確か維新の党代表の大阪府知事も、「土人発言の機動隊員」を労い、励ましていた…)


○新左翼はナショナリストだった


(白井)…60年安保のとき…「戦後日本はアメリカの従属国家で、米帝による占領が続いており、安保改定はその占領を永久化しようという企みだ」…というのが共産党の捉え方だった。
→ これに対して、新左翼は(対抗上)違う理論をということで、「日帝自立論」が出てきた。
→ 今、振り返ってみると、圧倒的に共産党の方が正しかった…というふうに見える。

(※『永続敗戦論』の著者だから、当然そういう見解になるか…)

…この理論的対立の問題を捉え返すことが、非常に重要になって来ているのではないか。

→ 今にして思えば…当時の日本はそれほど自立していなかったのに、日本は自立していると自分たちの力を買い被っていた…。
日帝自立論は、戦後日本の自立性に対する過大評価であると同時に、きわめてナショナリスティックな主張でもある。
→ そういう意味で、新左翼は、ナショナリストだったということではないか。
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○新左翼と新右翼の並行性


(白井)…新左翼の日帝自立論と、新右翼のYP(ヤルタ・ポツダム)体制打破は、パラレルだったのではないか。

…それまでの右翼は、トップにCIAがいて、その子分に岸信介、そのまた子分に児玉誉士夫がいて、→ 児玉がヤクザ者を含む自称国士たちを取りまとめ、反体制派に圧力をかける…という構図だった。…言ってみれば、「アメリカの下請け」をやっていた、ということ。

→ 新右翼のYP体制打破は…そんなことではダメだ…という主張だった。

(鈴木)…それまでの右翼は、デモや集会、オルグなどをやったりしなかったが…新右翼は、左翼から学んでやったのです。

→ 日本会議の人たちは、完全に左翼の運動を参考にしている。…地方から攻め上がるとか、徹底的にオルグするといったことは、これまで保守派の人は誰もできなかった。

(※今回の選挙で安倍自民党は、この「地方から攻め上がる」という手法を取っていたよう…)

→ このやり方で日本会議は、「元号の法制化」などいろいろな運動で常に勝利して来た。
…この前、左翼の集会に行ったら、発言者が「日本会議の人たちは、かつては左翼から学んだ。今は、我々が日本会議から学ばなければいけない」と言っていた。

(白井)…鈴木さんは(民族派系の全国学協の委員長のときに)、今は日本会議を仕切っている人たちに、様々な陰湿な権謀術数によって追い出されてしまった。…「あいつはとんでもない奴だ」という印象操作をされて、失墜させられてしまった。

→ そこで彼らは味をしめて、カリスマ性を持った目立ったやつをどうやって引きずり下ろすかという技術を、そこで学びつつ実践した。(詳細はP108~111)

(※こうした印象操作や陰湿な権謀術数は、何らかの形で今の安倍政権にも引き継がれているのではないか…)

(鈴木)…でも、いま日本会議にいたら、つまらなかったと思います。あの時に追い出してもらってありがたかった(笑)。そうでなかったら、こんなにいろいろな人たちに会えなかったから。

(※ここまで言えたら大したもんだ…)


○ねじれたナショナリズム


(白井)…日米安保の闇だとか、密約の問題だとかが、いま改めてクローズアップされているが(※矢部本など?)、非常に皮肉なことに、そういう問題にずっとコツコツと取り組んで来た人たちは、だいたい代々木系。

代々木系の人たちは…戦後日本は従属的な半植民地的国家である…という共産党の基本認識に忠実だったから、日米安保体制の本質が何かということにも、認識がずっとブレなかった。

→ そう考えると、やっぱり新左翼的なものというのは、戦後日本の非常にねじれた形でのナショナリズムの表出だった、ということになる。…やっぱり日本人としては、できるならば「日本は自立している」と言いたいから。

(※この白井氏の見解には、異論も多いかもしれない…)


○民族派は原発にどう向き合っているか


(白井)…民族派にとっては、ソ連の崩壊が一つのターニングポイントだったが、最近になってもう一つの大きなターニングポイントは、やっぱり3・11の福島原発事故ではないか。

→ 反原発のデモで、民族派的な立場から「原発はダメだ」という意思表示をする個人やグループがかなり出てきている、という新鮮な驚きがあるのだが…。

(鈴木)…(でも全体的には)「反原発をやっているのは左翼だ。奴らに利用されるな」というほうが多いと思う。

(白井)…原発がコスト的にも経済合理性から見ても見合うものではないことは、明らかになっている。

…国家の意思として、これほど頑張って原発を推進して来たのは何のためだったかというと…プルトニウムの確保。→ プルトニウムを自前で確保することが、本音だったのではないか…という見方が真実味を帯びて来ている。

→ やはり核武装しなければダメだ…という立場から、開き直ってそれを肯定している人たちもいる。

(※確かに最近ラジオの論調を聴いていても、そういう印象を受けている…)

(鈴木)…確かに極端な論者はいるが、右翼ではどうかな。→ そこまで居直れる人たちはむしろ保守派や文化人に多いのではないか。
…文化人であるという防波堤があるから、核武装についてまで言える、ということがある。


○71年間続いている閉店セール


(白井聡『戦後政治を終わらせる』NHK出版新書 を取り上げて)
(白井)…自民党にはいろんな派閥があったが、「歪んだ対米従属」という点では50歩百歩。→ 自民党内でこの構造に気づいた人たちは、党をやめるか、やめさせられた(鳩山由紀夫、小沢一郎、亀井静香など)。

(鈴木)…結局、「戦後政治を終わらせる」と訴えることが、逆に権力を維持することに繋がっている…というのが白井さんの見立て。
→ だから、「戦後政治を終わらせる」と言い続けて、終わらせないのがポイント…ということですね。

(※安倍の決まり文句「戦後レジームからの脱却!」も、同じことか…)

(白井)…そうです。決して終わらない。→ 権力を維持するための「オワラセルオワラセル詐欺」です。
…そう考えると、YP(ヤルタ・ポツダム)体制打破という新右翼のテーゼは、論理的に言って正しかったと思う。→ 本気で「戦後政治を終わらせる」のであれば、そういうことでしょう。

(※宮台真司ふうに言えば…「いつまでもアメリカのケツナメ外交をやってんじゃねえ!」…ということか…)

(鈴木)…よく閉店セールと銘打って何年も店を開けている洋品屋とかあるが…戦後日本は71年も(「戦後政治を終わらせる」という)閉店セールをやっている。
…賢い消費者だったら気づくけれども、日本国民はいまだに騙されている。


○60年代の危機とは何だったのか


(60年代に宗教団体だった生長の家が、政治運動を活発化させたきっかけ)…
(鈴木)…それは共産主義革命への危機感。…それともう一つは、公明党・創価学会の躍進。

→(それに対抗するために)仏教や神道を含めた宗教人たちは、自民党を応援したり、自分たちで政治連盟を作ったりしていた。

(※そうすると、左翼と公明党・創価学会と日本会議系は、三つ巴の関係? → そして左翼が強くなれば、敵の敵は味方…ということで、日本会議系と公明党・創価学会はくっつく…?)

(白井)…しかし、60年代が進むにつれて、革命幻想はどんどん土台を失っていった。
…あの当時、革命の危機(左から見れば好機)という言葉によって、実は何か違う問題に向き合っていたのではないか。

…三島由紀夫の場合、明らかに高度成長によって変化していく社会に対するある種、民族的不安とでも言うべきものが前面に出ている。

(※確かに現在は…高度成長のなれの果ての…弛緩・拡散した、核心なき社会…という見方もできる…)

→ そうして70年代、80年代を通じて、(青年たちの「戦う場」という)回路が失われ、その結果、発生したのがオウム真理教事件(1995年)だった、という気がする。

(鈴木)…60年代にはまだ、批判的な思考や異端の思想があり、「ちょっと待てよ」と言う人がいたと思う。…それは今でも言えることで、三島や高橋和巳が生きていたら、こんなひどい安倍政権の暴走はなかったと思う。

→(右翼だけでなく)国民全体がレベルダウンしているのではないか。…右翼も左翼も含めて、みんなが同じレベルに落ちているのですよ。

(※日本社会全体の劣化、レベルダウン…ということか…)

「日本国民として愛国心を持ち、一生を大切に生きるのは当たり前のことだ。そういう考えにケチを付けるのは過激派であり、テロリストだから日本から出て行け」…というふうに、情緒的な方向に流れているのではないか。政治的な意見以前の問題ですよ。

少しでも考えの違う人は許せない、一緒にいられない…という風潮が強まっている。
→ だから、60年代や70年代よりも今のほうが、ずっと時代の空気が悪くなっていると思う。


○鈴木邦男の根幹は何か


(白井)…鈴木さんが活動や言論の根幹に置いているものは、やっぱり自由ではないか。…多様な考え方があるのが自由な社会であって、社会はそうでなければならない、という強い確信が鈴木さんにはあると思います。…それはどこで形成されたのか。

(鈴木)…高校時代の不自由な生活が一番大きな体験だったと思う。…それから、生長の家の活動や三島由紀夫の影響など、いろいろなものがミックスされていると思う。

普通は国家や宗教、政治党派などに頼ってしまい、家庭なり個なりが強い思想を持ったケースというのは、なかなかないのじゃないか。
→ そう考えると、自由や自我はやっぱり戦って勝ち取るものだと。

…ルポライターの竹中労が…「弱いから群れるのではない。群れるから弱いのだ」…と言っていたが、確かにそうだと思う。…弱い一人ひとりが強くなるために団結すると言うが、その時点で個の意見がなくなってしまう。

→ ぼくらは右翼運動を何十年とやってきたが、その中で感じたことです。…やっぱり自由が必要ですよ。

(白井)…60年代に運動を担っていた人たちはやはり、敗戦を契機とした社会の価値観の大転換から大きな影響を受けていた。
→ だから、自由の有り難さ(その絶対的な価値)が身体化されていたのでしょう。
…自由を擁護するためには、相当に極端な立場や自分にとって気にくわない立場も排除せずに許容しなければならないから。

…ところが、その身体化された価値が、(※戦後70年余が経過して)だんだん弛緩して、現在に至っているということでしょう。

(※鈴木邦男氏は…生長の家や新右翼の活動から出発して、今は「リベラル保守」(?)とでも言うべき領域に達したのではないか。
→ 今後は、『「リベラル保守」宣言』(新潮文庫)の著者の中島岳志などにも触手を広げて…「成熟社会」における「リベラル」とは何か、という視点も考慮していきたい…)


(3章)天皇の生前退位と憲法改正


○山本太郎直訴事件の顛末


(白井)…3・11以後で、ぼくが特に注目しているのが、参議院議員・山本太郎の直訴事件(赤坂御苑での園遊会で、天皇陛下に直接、「子どもと労働者を被曝から救ってほしい」と訴える手紙を渡した、というもの)。

一番興味深かったのは、政府側の反応…当時の文科大臣・下村博文が、山本の直訴について…「田中正造に匹敵する不敬事件だ」…と批判した。

→(ところが、足尾鉱毒事件のために尽力した政治家・田中正造は、3・11以後、すごい人だと改めて評価が上がっていたので)…下村大臣は、山本太郎を批判するつもりだったのに…逆に、「田中正造のような偉い人物だ」と評価してしまったことに気づき…翌日になってしどろもどろの釈明をすることになってしまった。

→(下村大臣が周章狼狽したのは)…日本の歴史上、何度かあったパターンが反復されるのではないか…という状況が見えるから。

既存の秩序が崩壊するとき、その秩序をマネージしていた権力が無能を曝すわけだが…
→ その権力に代わって、ほとんど忘れられていた天皇の権威がにわかにクローズアップされ、体制の転覆に至る。
…鎌倉末期とか江戸時代末期がその典型だが…今のレジームも、原発事故で完全に無能をさらけ出している。

この直訴に対して、天皇陛下の対応が抜群に面白い。
→ 直訴事件から数ヶ月後に、天皇御夫妻が栃木県に「私的な旅行」に出かけ、佐野市の郷土博物館を訪問して「田中正造の手紙」を見たという。

「田中正造の直訴事件」と言われるが…正確には直訴未遂(明治天皇に、足尾鉱毒の被害を訴える手紙を手渡そうと試みたが、警護に制止されてしまった)。

→ つまり、天皇・皇后御夫妻は、百十余年の時を超えて、田中正造の手紙をわざわざ現地に受け取りに行った、ということ。
…これははっきり言って、原発問題へのメッセージです。

(鈴木)…それはスゴイねえ、ホオ~。

(白井)…山本氏の直訴に対する、天皇御夫妻のリプライ(返事)が、足利へのお忍び旅行だったわけだが…この行動の意味が、どれだけの人に理解されたかは疑問…。

(鈴木)…よく保守派の論客たちから批判がなかったねえ。

(白井)…保守派は当然のように無視しました。都合が悪いですからね。

→ こういう具合で、安倍政権との対立が表面に出てきた中で、天皇陛下が「生前退位の意向」を表明した。…タイミング的には、衆参両院で改憲勢力が2/3を占めて、いよいよ改憲へと現実に踏み出せる状況が出来上がったとき…。

(※今もまさに、その状況が再構築された…)

(鈴木)…(田原総一朗も言っていたが)…その天皇の意向表明は、憲法改正を阻止するためだと…。


○天皇・皇后と安倍政権の深刻な対立


(鈴木)…(今生天皇は)政治的な発言はできなくても、折りに触れて太平洋戦争の激戦地に慰霊に行っている。…その行為自体が安倍政権に対する批判でしょう。

→ 天皇陛下は、太平洋戦争については自分で体験され、あの戦争がどのように始まって、どう逆らえずに敗戦に至ったかを知っておられる。…その経緯については是非話してもらいたいと思います。

(白井)…天皇の御言葉が出てきた背景に、天皇・皇后御夫妻と安倍政権との考え方の違いがあった。…それはもう、対立と言っていいほど深刻なレベルだろうと思う。

→ その証拠として(山本太郎直訴事件の他に)…棋士の米長邦雄の日の丸・君が代発言(米長が「日本中の学校で国旗を揚げ、国歌を斉唱させる」と言ったのに対し、天皇は「やはり、強制ではないことが望ましい」と答えられた)。
…これは、国家主義的なものの復権に対する明白な警告だったろう。

→ 激戦地で戦死者を慰霊する行脚、「憲法を守ることが大事だ」という発言(戦後の憲法に対するある種の忠誠)…そうした姿勢が近年、とくに3・11以後、急速に強まっているという感じがします。
美智子皇后の五日市憲法発言(新憲法ができるはるか前に、民主的な憲法を作ろうという草の根的な動きが日本にあった)…ということもあった。
→ これは、「押し付け憲法論」に対する明白な批判であると思う。


○天皇の生前退位問題


(鈴木)…(天皇の生前退位について)…保守派の人たち、とくに自民党が、「辞めさせるな」と言っている。
→ もし天皇に自由を認めて、(天皇になるかならないかも含めて)決められたら堪らない、というわけだが…「政府が監視するんだ」みたいな言動は、ちょっと思い上がっていますよ。

(白井)…日本会議などは、これでまた女系天皇の可能性が取り沙汰されることに警戒している…と言われている。→ なぜ、彼らはそんなに女系天皇を嫌がるのでしょうか。

(鈴木)…「日本は強くて雄々しい国だ」というイメージを守りたいのじゃないか。

(※それだけの理由で…?!)

(白井)…今回、一番唖然としたのは、日本会議系の平川祐弘東大名誉教授の発言…「公務負担が重くて体力の限界だと言うが、公務を自分で増やしておいて、きついから辞めるというのはナンセンスだ」…という意味のことを言っていた。
→これはちょっと、人として最低だなと思いました。

(※東大にはまだこういう老教授が巣くっているのか…!?)

(鈴木)…女系天皇の問題でも、「女性になったら、もう天皇ではない」と露骨に言う…「男子を産めなかったら離婚して別の妃を」と言う人もいる。
→ もし、そんなことを普通の家庭でやったら大変です。…普通の家庭でできないことが、なぜ皇室だったら言えるのか。
漫画家の小林よしのりに言わせると、天皇は人権がないし、まるで奴隷状態に置かれているという…。

(白井)…(田原総一朗が言うように)天皇陛下の「生前退位の意向」には、憲法改正を止めることを狙う意図があると思う。

(鈴木)…政府や自民党にも教えず、宮内庁とNHKで秘密裏に進めた…ある意味で、宮内庁とNHKを巻き込んだクーデターかもしれない。

(白井)…いや、そう思います。→ 政権側がその後、露骨な報復人事をやったわけだから。…具体的には、意向表明の実現に加担した宮内庁トップらの首を切って、警察上がりの腹心を宮中に送り込みましたから。

(※こうした陰湿な報復人事は、安倍政権の得意技…?)


○象徴天皇制とは何か


(白井)…(「生前退位」ということで、改めて思ったのは)…象徴天皇制とは何なのか…そのことについて、戦後日本人はあまりにもちゃんと考えて来なかったのではないか…。

(鈴木)…「国民統合の象徴」…統合するというのは、かなり動的なもの。→ ぼくは、「どんなことがあっても戦争に持っていかない」ということじゃないか、と思う。
…だから今回のお言葉でも、「国家が一番陥りがちな犯罪は戦争だから、それだけは避ける。そのために象徴はあるんだ」という考えではないか。

(白井)…(日本会議系の人が盛んに言うことだが)…素直に憲法と皇室典範を読んだら、「公務が体力的に無理な場合は、摂政を置く」という決まりになっている。

→ ところが、天皇は「摂政ではダメだ」とはっきり言っている。…そして「象徴としての役割を果たす」という表現が何度も出てきているが…その思想の核心は、一言でいえば、やっぱり「祈り」なんだろうと思う。
…国民の平安を祈る。それから、不幸にあった人のところに行って励ます。…これが動的な統合の象徴としての役割を果たすための中核的な仕事であると。

→ では、なぜそれが摂政ではダメなのか(代えがきかないのか)というところに、ものすごくアルカイック(古風で素朴)な天皇観があると思った。

…要は、「祈りが弱まると国がダメになる」ということ。→ 祈りが衰弱すると、象徴する作用も弱まるから、国民の統合が弱まって国がバラバラになっていく。それでは、国民は不幸になってしまう。
…言ってみれば、この国で起こる国民の幸不幸に対して無限責任を負っている…という意識。不幸が起こるのは自分の祈りが弱いからだと。

→ だから、加齢や病気で体が弱ることは、祈りが弱まることだから、自分は引退するべきだ。…若い世代に引き継いで、もっと強い祈りによってこの国を支えなければダメだと。

…これは近代的な思想や思考では理解できない、アルカイック(古風で素朴)な世界観であり、それがあの御言葉の一つの核心だったろうと思う。

(※白井さん、まだ40歳ぐらいなのに、ずいぶん古風で素朴な領域にも、よく理解を届かせている…)
                                           

(3章続く…次回は、3章の核心部分に迫っていきます……2017.11.21)






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